2019年10月3日 第40号

 アメリカ・ニューヨークで開催された国連環境会議に出席したスウェーデン出身16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリーさんに感銘した人々が世界中で9月27日に環境問題への対策を政府に訴える気候変動対策デモ行進を実施、カナダ各地でも開催された。

 ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市でも呼びかけられ、バンクーバー市警によると10万人が参加したことが分かった。主催者の一人サマンサ・リンさんによると約1万5千人の参加者を予想していたという。それだけ環境問題に対する意識が高いということが証明されたということになる。

 若い世代が呼びかけたこうしたイベントはとても影響力があるとリンさん。今回はそれに大人たちが賛同するという特別な運動になったとCTVのインタビューに答えている。

 この日が金曜日ということもあり、参加した人々は学校や仕事を休んで、環境問題への対策の重要性を訴えた。バンクーバー市、サレー市では保護者の許可があれば学校を休んでデモへの参加を承認、エミリー・カー美術大学は、この日の午後の授業をすべてキャンセルした。またブリティッシュ・コロンビア大学、サイモンフレーザー大学は、デモに参加する学生は教授らと事前に話をするよう呼び掛けた。

 バンクーバーに本社のあるアウトドア小売り大手マウンテン・イクイップメント・コープ(MEC)やラッシュ・コスメティックは、この日は全国の店舗を閉店とすることを事前に発表し、従業員には参加を促していた。

 デモは参加者が多かったこともあり、バンクーバーダウンタウンとキツラノ地区を結ぶキャンビー・ブリッジを完全封鎖。ダウンタウンのあちらこちらで渋滞が起こった。そしてダウンタウンの中心地ウエスト・ジョージア通りとハミルトン通りの交差点まで続き、市警は午後5時にようやく道路封鎖を解除した。

 主催者はそろそろ環境問題への対策を見直す必要があると主張。個人や家庭で何ができるかだけではなく、政治や大企業の負担にもっと力を注ぐべきではと語っている。

 今月実施される選挙では環境問題への対策が争点の一つとなっている。しかし次の政権を担う可能性のある自由党や保守党は、大企業への温室効果ガス削減への負担増を明確には掲げていない。

 ケベック州モントリオールでは、トゥーンベリーさん本人が参加。ジャスティン・トルドー首相や新民主党ジャグミード・シング党首、グリーン党エリザベス・メイ党首らも参加し、デモへの参加は40万人を超えた。トゥーンベリーさんは「権力者が自分たちの責任を果たさないのならば、我々がやる。私たちが変化であり、変化は必ずやってくる」とモントリオールで参加者らに語った。

 カナダでは全国約80都市でデモが行われた。

 

2019年9月26日 第39号

 選挙まで1カ月となった中で、自由党に激震が走った。18日にアメリカの雑誌タイムが掲載したジャスティン・トルドー首相が教師時代の写真が波紋を広げている。

 写真は、トルドー首相がブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバーの私立学校で教師をしていた時にアラビアンナイトをテーマにした2001年のイベントで、トルドー首相が29歳の時に撮影されたもの。この写真に写っているトルドー首相は、アラビアンナイトの話に出てくるような衣装をまとい、顔や手を真っ黒に塗って当時の同僚と思われる女性たちと写っている。自由党はこの写真について首相本人であることを認めている。

 さらに、CBCがトルドー首相がやはり高校の教師時代に顔を黒塗りして学校のタレントショーに参加していたと報道、グローバルニュースは1990年代にトルドー首相が顔を黒塗りしている動画を紹介。自由党はどちらもトルドー首相であることは間違いないと認めている。グローバルが紹介した動画はのちに野党保守党が提供したことが分かっている。

 トルドー首相といえば、多様化こそがカナダの強みとして政権を取って以降も首相として多文化主義を推進している。その本人が政治家になる20年前とはいえ、顔黒塗りでこうした格好をしている写真は、自由党から立候補している候補者、自由党支持者に大きなショックを与えていると各社が報道している。

 トルドー首相は20日の会見で、「多くの人々を失望させてしまった。ここにこうして国民の前に立ち、非常に反省している。許してほしい」と語った。さらに「今の自分はあの時の自分とは違う」と語り「今は、毎日のように差別と闘っている人々が深く傷ついていることを理解する人間だと思っている」と語った。

 このトルドー首相の黒塗りスキャンダルはトルドー自由党の支持率にも影響を及ぼしている。スキャンダル後に実施された各社の世論調査では保守党がリードしている。

 イプソス社による調査では保守党支持が36パーセント、自由党支持が32パーセント、アンガスリード・インスティテュートでは保守党35パーセント、自由党30パーセント、イコス・ポリティクスでは保守党35・5パーセント、自由党32パーセントとなっている。唯一ナノス・リサーチの調査では自由党35・1パーセントと保守党33・5パーセントをリードしている。

 自由党は選挙まで1カ月を切ったこの時期に環境問題対策や処方薬計画を発表するなど、巻き返しに必死になっている。

 

2019年9月26日 第39号

 アルバータ州政府が可決した他州への石油・ガス輸送停止を可能にする法令について連邦裁判所が25日、施行停止を言い渡した。ブリティッシュ・コロンビア(BC)州政府の言い分が認められた。裁判長セバスチャン・グラモンド氏は、別名ターンオフ・ザ・タップ法案は、大きな問題を抱えており、実施されればBC州民の生活に大きな打撃を与えると語っている。

 アルバータ州では昨年、新民主党(NDP)政権時代に同法案が可決された。法案の内容は、アルバータ州政府が他州へ輸送する石油やガスの量を調整できるというもの。しかし、本来の狙いはBC州政府がトランスマウンテン・パイプライン拡張工事計画を阻止するために環境対策を強化する法案を可決したことに対抗したもので、BC州を狙い撃ちした法案となっている。

 これにBC州政府が、アルバータ州が可決した法案は憲法違反と訴えを起こし、連邦裁判所に持ち込まれた。

 グラモンド裁判長は、アルバータ州の法律はブリティッシュ・コロンビア州への石油製品禁輸を通してBC州の経済に打撃を与えようという意図があることは明確と語り、禁輸措置はBC州でのガソリンやディーゼルの価格を上昇させるというだけではなく、公共の安全も危険にさらす可能性があると付け加えた。

 今回の判決を受け、BC州司法長官デイビッド・イービー氏はBC州の主張が認められ、施行停止命令が言い渡されたことを歓迎すると記者団に語り、「アルバータ州に自分たちの意に沿わない政策に対して他州を罰するために石油の輸送を制限するという権利が認められるとは思わないというのが我々の主張だ」と語った。

 今後はアルバータ州のこの法律が違憲かどうかの判断が示される。

 トランスマウンテン・パイプライン拡張工事計画については、自由党政権が承認した後にBC州新民主党政権が誕生し、環境対策の観点から州内を通るオイルサンドの輸送規制を見直すとの立場を表明。それ以降、自由党政権・アルバータ州政府とBC州政府の対立が激しくなった。

 ただ2018年8月に連邦裁判所が自由党政権のパイプライン計画の承認は環境対策と先住民族への説明不足として一旦工事の停止が言い渡されたが、今年自由党政権が再び承認している。同パイプラインは2018年5月にキンダーモーガン社から自由党政権が45億ドルで買収している。

 同パイプラインについては10月実施の選挙の争点にもなっている。

 

2019年9月26日 第39号

 自由党は24日、来月の選挙で選ばれたならば気候変動への取り組みとして2050年までに温室効果ガス排出量ゼロを目指すと発表した。23日にアメリカ・ニューヨークで開催されている国連総会で欧州連合や他の65カ国が約束したのを受けての発表となった。

 24日に発表された自由党の声明では、その他にも排出量の削減や排出量ゼロ技術を開発した企業に対しては法人税を半分に引き下げることも表明した。自由党はクリーンテクノロジーを重視することで、環境問題への取り組みだけでなく、雇用創出や経済成長にもつなげることができると説明している。さらに2022年までには連邦政府のすべての建物でクリーンエネルギーを使用する計画も発表した。

 トルドー首相は、環境危機は現実的な問題で一刻の猶予もないところまできていると語り、カナダは現実問題として世界の他の地域よりも2倍の速さで温暖化が進んでいるとの認識を語った。

 ただ具体的な温室ガス排出量削減策は打ち出せていない。

 2015年に政権を取って以降、環境問題への取り組みを声高に叫んでいるが、実際には温室効果ガスの削減までには至っていない。2015年のパリ協定で提出した2030年までに2005年比で30パーセント削減の目標も、このままでは達成するのは不可能と環境省が発表している。

 それでも今回の発表に合わせて現在掲げているパリ協定の目標も達成すると強調している。これまでに自由党が実施した環境対策は、炭素税の実施、電気自動車への移行を手助けする補助、公共交通機関建設への資金援助や、クリーンテクノロジーへの補助などが主なもので、最大の温室効果ガス排出産業である天然資源産業への規制などには、ほとんど着手していない。

 一方で、アルバータ州のオイルサンドをアメリカ以外への市場へ輸出するためのパイプライン建設工事計画を承認するなど、環境対策とは逆行する政策も行っている。

 こうした自由党の政策を過去4年間での成果がないとして野党は批判している。

 トルドー自由党が環境問題政策を次々と発表する背景には、今年はこれまでになく環境問題が選挙の争点となっていること、それを示すかのようにグリーン党の支持が上がっていること、環境問題を重視する若者票を取り込む必要があることなどがあげられる。

 新民主党(NDP)やグリーン党は化石燃料からの脱却を掲げ、パイプライン建設の反対や地球温暖化に歯止めをかけるための気温上昇1・5度以内を目指す目標を達成すると発表している。

 さらにグリーン党は2030年までに2005年比で60パーセントの温室効果ガスの削減、電気自動車以外の乗用車の販売禁止なども掲げている。

 

2019年9月26日 第39号

 世論調査会社リサーチ社が実施したオンラインでの調査で、ブリティッシュ・コロンビア州に滞在している非ヨーロッパ系の人々のほとんどが人種が原因で何らかの差別を受けたことがあると答えた調査結果を発表した。

 調査に回答した非ヨーロッパ系の11パーセントが「ひどく差別された経験がある」と回答し、22パーセントが「何らかの差別された経験がある」、36パーセントが「少し差別された経験がある」、22パーセントはほとんど差別された経験がないと回答している。

 差別の内容は、23パーセントが口頭による差別的発言を受けたと回答、6パーセントは暴力を受けた経験があると回答している。他にも、カスタマーサービスで差別を受けたり、人種をからかったり、雇用の機会を失ったという回答もあった。

 ただ今回の調査では、人種差別がバンクーバーで増加しているのか、差別がひどくなっているのかという経過については分かっていない。

 調査は9月6日から9日までBC州に滞在している非ヨーロッパ系の大人291人から回答を得ている。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。