2017年11月2日 第44号

 

 

イラスト共に片桐 貞夫

 

   七 おおかみ

「ウオーッ!」

 とおぼえがだいぶ近づいて来ました。アルタイは、近くにころがっていたぼうきれをつかみました。

 お日さまがかたむいて、西の空をまっ赤にそめています。草原も、まっ赤になってもえているようです。

「ウオーッ!」

 とうとう、岩の上に動くものがあらわれました。三びきです。三びきの黒いおおかみがすがたをあらわしたのです。

 きばをむくおおかみにかこまれたアルタイは、もう生きたここちがしません。ひざをついたまま、ぼうだけを前に出しておおかみをおいはらおうとしました。

「ウオーッ!」

 いちばん右がわにいた大きなおおかみがとびかかってきました。アルタイはひっしでぼうをふりました。おおかみは鼻さきをうたれてしりごみしました。

「ウオーッ!」

 二ひき目と三びき目がいっしょにとびかかって来ました。アルタイはまたぼうを左右にふりました。アルタイは、足とうでをひっかかれましたが、まだぶじです。

「ソロンガ」

 アルタイがソロンガの名前をよびました。しかし、たとえいまソロンガがここににいたとしてもなにができるでしょう。ソロンガは、年をとったひつじでしかないのです。

「ウオーッ!」

 また、二ひきがとびかかってきました。アルタイは前のようにぼうをふりましたが、一ぴきがアルタイのくつにくいつき、もう一ぴきが、アルタイのぼうにくいつきました。そして、アルタイの手からぼうをうばってしまったのです。

 ああ、アルタイは、もうぜったいぜつめいです。からだをまもるものはなにもありません。

「ウオーッ!」

 三びきが飛びかかって来ました。アルタイは目をつぶってかくごをしました。その時、みょうな音がしました。アルタイは、「キャン」という犬のひめいのようなものを聞いたような気がしたのです。こわごわと目をあけました。

 二ひきのおおかみが、アルタイとはべつの方向にかまえています。なんと、一頭のひつじがそこに立っていたのです。

「ソロンガ!」

 それは、まちがいなくソロンガでした。ソロンガが二ひきのおおかみとかまえあっているのです。「キャン」といったもう一ぴきのおおかみは、ソロンガのさいしょのたいあたりで谷そこに落ちたのでした。

「ウオーッ!」

 二ひきのおおかみがとびかかりました。ソロンガも、つのを前に出して、おおかみののどをねらっています。ソロンガは、さいごの力をふりしぼってアルタイをまもろうとしているのです。

「ウオーッ!」「メェー!」

 おおかみが左右からかみつこうとしますが、ソロンガは、つのを下にしてすきをあたえません。とうとう一ぴきのおおかみがソロンガの足にかみつきました。ソロンガが、からだをまげてつのをふりました。もう一ぴきがソロンガの前足にかみつきました。すると、ソロンガのつのがおおかみのよこっぱらをおそいました。

「メェー!」

 どのくらいたたかったでしょうか、二ひきのおおかみが、「キャン」とひめいをあげていなくなっていました。

「ソ、ソロンガ」

 アルタイが、はいずってソロンガのもとに行きました。しかし、きずだらけのソロンガは息をするのも苦しそうで、頭を上げることもできません。けがをしている上につかれきっているのです。

「ソロンガ」

 アルタイは、りょう手をひろげてソロンガをだきしめました。

 やがて、あたりはとっぷりとくれ、さむいモンゴルの夜がやってきました。しかし、ソロンガをだいじに思うアルタイはさむさをかんじません。一ばん中ソロンガをしっかりだいてはなしませんでした。

「アルターイー!」「ソロンガー!」

 お父さんとひつじかいの人たちが、この岩の上にやってきたのは二日後のことでした。お父さんたちは、馬の足あとをたどってアルタイとソロンガがどこにいるのか分かったのでした。

(了)

 

 

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