2019年5月16日 第20号
肝臓は健康を維持するために大変重要な器官で、体重の約1/50を占め、人体の臓器としては一番大きなものです。肝臓は全身の代謝の中心であり、アルコールや有害物質の分解のほか、胃腸で吸収された栄養素を体に必要な成分に転換して蓄えたり、脂肪の消化吸収に必要な胆汁の生成や分泌を行ったりするなど、500種類以上の代謝反応が執り行われています。肝臓に異常があれば、当然のことながら全身の代謝に乱れが生じ、何らかの病態が現れて来ます。
一方、皮膚は内臓の鏡とされ、皮膚の異常は、肝臓の代謝異常を臨床的に診断する何よりも明白な症状です。例えば、よく知られている黄疸とは、肝疾患に特有の色素沈着、血液中に胆汁色素が増え、そのために皮膚や粘膜が黄色くなる状態、眼球の白い部分も黄色くなり、全身が黄色に染まります。黄疸が強いときには、浅黒くなって皮膚の痒みも強くなります。他に、クモ状血管腫という皮膚の血管性変化として最も特徴的なもの、直径3mmから1cmほどの赤い糸くず状の発疹で、肝硬変患者の約60%に認められています。毛細血管が拡張した故に、まるでクモが四方に脚を伸ばしたような形をして、顔、首、胸など上半身によく観察されます。また、手掌紅斑(手のひら、特に親指と小指のつけ根の部分が赤くなり、やや熱っぽさを感じ、手の甲の色は変化なし)と紙幣状皮膚(毛細血管が拡張し、不規則な線状の模様となって、両腕上腕部の外側、胸、背中に散在し、赤い糸くず状で、紙幣の繊維模様に似ている)も肝障害に伴った皮膚の血管性変化であります。
結局、肝機能障害の結果に付随した異常代謝産物が皮膚に作用、沈着し、皮膚血管を侵襲して病変を引き起こすことになります。その障害が軽微で、直ちに皮膚変化を引き起こさないとしても、皮膚疾患の発症を助長し、治癒を長引かせる一因となりますので、皮膚疾患を治療するに際しては、特に留意しなければなりません。皮膚に何か異常を発見したら、早めに受診し、原因を特定することが大切です。更に、定期的に血液検査を受けて肝機能の状態を把握するのも肝心です。例えば、アトピー性皮膚炎などの患者さんの中に、肝機能の検査数値、特にGOTの値がアトピーでない対照組より明らかに高い傾向が一部の研究報告で認められました。また、湿疹が全身に拡大している症例では、LDH高値を示すこともあります。
皮膚以外に、口臭や体臭も要注意です。腸内で発生した臭い分子は、小腸から吸収され、肝臓で無害化、無臭化されますので、肝機能低下などの状況が起きると、その臭い分子を肝臓で解毒できなくなります。血液中に溢れた臭い分子は、血流に乗って体を巡り、呼気を通して口臭に、汗を通して体臭になって表現されるのです。
不眠症と肝臓の関係については、肝臓は大量の血液を貯蔵している臓腑で、憂鬱や激しい怒りによって何らかの障害があると、血を蓄える機能は失調してしまい、肝血は減少するため熟睡ができなくなります。漢方医学では「 肝鬱化火」という言葉があるように、肝臓は、落ち込んで気分が優れない、抑鬱状態になり、苛々する、妙に怒りっぽいという情緒の変化と関連しています。寝付きにくい、夢をよく見てすぐ目が覚め、一晩中寝れない、或いは昼間が眠くて、頭痛、耳鳴り、怒りっぽいなどの症状に気付いたら、一度肝機能のチェックをしたほうが賢明です。
その他、食欲不振、疲れやすい、吹き出ものが増え、鼻頭が赤くなる、女性の生理不順、傷口がすぐに化膿しやすい、お酒に酔いやすいことなどの諸兆候が現れたら、肝機能のトラブルに念頭に置いて考えなければなりません。
そして、肝臓を労わる暮らしをするために、様々な工夫が大事ですね。まず、万国共通なのは規則正しい生活です。朝食をきちんと食べること。朝食を食べないと昼や夜に食べる量が多くなります。1食に食べる量が多くなると血糖値が上がりやすくなり、使われなかった血糖は最終的に脂肪に変わり、肥満へとつながります。普段、肝臓の機能を正常に保つ蛋白質を多く含む食材(大豆、卵、チーズなど)、肝臓の機能を強化するタウリンを多く含む食材(あさり、しじみ、カキ、帆立、いかなど)、肝臓の機能を助ける水分を多く含む食材(大根、生野菜など)を取り入れましょう。同時に運動をすることが重要であり、運動が難しい人は日常生活の中でエネルギー消費を増やすことがお勧めです。エレベーターを使わずに階段を使い、待ち時間は立って待ち、歩ける距離は歩きなど、座っている時間よりも立ったり動いたりしている時間を増やしてください。また、腹八分に毎日排便の習慣を堅持しお酒を飲みすぎないように、夜更かしをせず充足な睡眠を取り、常に安定した心のケアと愉快な気持ちを保つことが肝臓を労わる不変な法則と言えるでしょう。
医学博士 杜 一原(もりいちげん)
日本皮膚科・漢方科医師
BC州東洋医学専門医
BC Registered Dr. TCM.
日本医科大学付属病院皮膚科医師
東京大学医学部漢方薬理学研究
東京ソフィアクリニック皮膚科医院院長、同漢方研究所所長
現在バンクーバーにて診療中。
連絡電話:778-636-3588