2019年5月9日 第19号

 皮膚は対外的並びに対内的保護作用を営む人体最大の臓器であると知られています。したがって皮膚は、内外からの刺激に順応しながら防御的に反応し、常に全身からの影響を受けつつ変動しています。内臓の変調が皮膚に反映されることが多く、一般的にこれを「デルマドローム」(内臓病変の皮膚表現)と総称します。このデルマドロームの臨床技術を熟知することによって、皮膚病変から全身疾患ないし内臓病変の存在を推察し、検査・診断及び治療の方向を決めることができます。また内臓疾患治療後、一旦軽快していた皮膚病変が再燃したり、増悪してくる場合には、内臓疾患の再発を察知する手掛かりともなります。今回はいくつかの日常生活の中にもしかしたら遭遇する皮膚に関係するトラブルを紹介します。

 例えば、体のいたるところに急激に短期間でイボが出現して、医学専門用語では「レーザー・トレラ徴候」といわれる状況、ちなみに老人性イボや疣贅(脂漏性角化症)が数か月以内に急速に皮膚に多発し、その大きさと数を増し、同時に痒みを伴う場合、これは内臓の悪性腫瘍(胃がん、大腸がん、悪性リンパ腫など)を合併する可能性が高いために,全身検索を考慮しなければなりません。

 特定部位の皮膚だけ最近黒くなったと気付いたことがありませんか。何となく脇の下、うなじ、鼠径部(そけいぶ)、陰部、股部(こぶ)の皮膚が黒ずんでざらざらになり、しわが深くなっています。これは「黒色表皮肥厚症(こくしょくひょうひひこうしょう)」と認識され、胃がんなどのケースに現われてきます。なお、悪性腫瘍と関係なく、肥満や内分泌の障害に伴って出てくる良性型があります。

 顔色が悪い、黒くなっている、クマができる、唇や爪の色変調などを自覚した時には血液検査、肝機能障害の有無について調べたほうが良いとお勧めします。

 また、顔,特に目頭に黄色っぽいしこりが目立ってきた黄色腫と呼ばれる皮膚病で高脂血症状、高コレステロール血症などで認められることが多いです。ひどい場合、胆道閉塞(閉塞性黄疸)によって高コレステロール血症が起こり、黄色腫を生ずることもあり得ます。その際は血液検査の結果に応じて生活指導,血中の脂質成分を低下させる治療も必要でしょう。

 なお、手指や爪の変形も見逃してはいけません。例えば、ばち状指(時計皿爪)の原因の80%は慢性肺疾患、特に肺がんが多いといわれています。原発性肺癌の場合には、このばち状指が初発症状として現れる例もあります。

 古くから「皮膚は内臓の鏡」といわれますが、肝炎や肝硬変などの肝臓病の患者さんでは、皮膚に目立った異常がみられないにもかかわらず、皮膚に強い痒みを生じることがあります。肝臓病による痒みで、普通、以下のような特徴があります。①見た目に異常がなくても痒い②掻いても掻いても痒みが治まらない③全身に現れる④痒くて眠れない⑤一般的痒み止めの薬が効きにくい。このように肝臓病の痒みは、掻いても掻いても治まらない、お薬を塗ってもあまり効かないなど、生活品質(QOL)を低下させ、ときには睡眠障害の原因ともなります。

 お酒をよくお飲みになる方で頬や鼻の皮膚が昼間でも赤い方をよくお見受けしますが、一つ特殊な病名“酒皶(しゅさ)”が名付けられました。酒皶は読んで字の如くアルコールの過剰飲酒によって出現することが多い皮膚病です。但し、アルコールと関係なく出現する事も可能で、原因がまだよく分かっていない難病です。一部の研究報告では、肝臓で不活性化されなかった過剰の女性ホルモンの蓄積によるものだと関連付けています。酒皶の治療としてはアルコールと関係する場合はうまく飲酒を控えるよう指導する事や外用薬、漢方薬で治療することもあります。

 最後に、肝機能障害もなく、常に肌の乾燥や痒みを訴える場合、それは糖尿病と関連する可能性を想起しなければなりません。血糖コントロールが不良の状態が続くと免疫機能が低下し、細菌や真菌に感染しやすくなり肌トラブルを起こしやすくなります。また血流も悪くなるため、皮膚に必要な栄養や酸素が行き渡らなくなり、乾燥や痒みにつながります。痒みが生じたり、赤いブツブツが出てきた時には、痒くても患部をできるだけ掻かず、肌に傷をつけないよう注意することが大切です。掻くと刺激となり炎症が強まり、痛みが現れることもあります。糖尿病の人では、掻いて傷を作ってしまうと、そこから重篤な感染症を起こしてしまう恐れがありますので注意が必要です。

 普段、皮膚に関しては家族や友達の間でお互いに「顔色」をチェックしながら、これらの皮膚病と予防医学の知識を啓蒙し、声を掛け合うことはいかがでしょうか。

 


医学博士 杜 一原(もりいちげん)
日本皮膚科・漢方科医師
BC州東洋医学専門医
BC Registered Dr. TCM. 
日本医科大学付属病院皮膚科医師
東京大学医学部漢方薬理学研究
東京ソフィアクリニック皮膚科医院院長、同漢方研究所所長
現在バンクーバーにて診療中。
連絡電話:778-636-3588 

 

 

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