2018年5月31日 第22号

 「痺症」という名称は東洋医学の専門用語で、日本語になじみのない言葉、狭義的に「関節炎」や「関節痛」と理解されている。難病と思われる西洋医学のリウマチ関節炎、変形性関節症などもこの「痺症」の範疇に当てはまる。今回はまず関節リウマチを中心に西洋医学と東洋医学両方の視点から触れてみる。

 語源からたどると、「リウマチ」はギリシア語の「流れる」に等しい意味をもつ言葉である。筋肉や関節に炎症を引き起こす毒素が、体のあらゆる所に流れ込む故に痛みなどの症状を生じる病気だと認識されて、「リウマチ」という病名が生まれた。関節リウマチは、原因不明の免疫異常により、主に手足の関節が腫れたり痛んだりする病気で、関節の内面を覆っている滑膜に炎症が起こり、進行すると軟骨・骨が壊れて関節が動かせなくなり、日常生活も大幅に制限される。細菌やウイルスなどの侵入から体を守る免疫システムが何らかの異常を生じ、関節を守る組織や骨、軟骨を外来侵入者と見なして攻撃し、その組織を潰してしまうのがリウマチである。こうした病気は“自己免疫疾患”とも呼ばれ、その原因は、未だに解明されていない。細菌やウイルスの感染、過労やストレス、喫煙、出産や外傷などをきっかけに発症することがある。なお、炎症は関節だけでなく、目や肺に出現する可能性もある。この病気に罹患しやすいのは主に女性、男性の約5倍くらいで、30 〜50 歳代が多いと言われる。

 関節リウマチの主な症状は、朝のこわばりと関節の痛み・腫れであり、発熱、倦怠感、体重減少、食欲不振などの全身症状を伴うこともあり得る。朝のこわばりは、朝起床時、何となく手の指が腫れ、硬くて曲げにくい症状で、足の指や四肢全体に拡がることもある。この症状は、更年期障害や他の病気でも軽度ならみられることもあるが、関節リウマチでは、通常30 分以上から数時間と、長時間持続することが特徴。

 最近、新しい抗リウマチ薬であるサイトカイン阻害薬が使用され、早期から効果的に使えば、大多数の関節リウマチ症例が寛解状態(痛み・腫れが取れ、血液検査正常、X線検査で進行なし)を維持することも可能。ただ、免疫機能抑制剤であるため、感染症やその他の副作用に対する注意が必要。なお、既に関節のこわばりが酷くて日常の行動がかなり制限された患者には鍼灸と漢方治療の選択肢を考えてもよい。

 東洋医学の「痺症」「関節リウマチ」に関する記載は不思議にも二千年前まで遡る。中国古典医学書の『素問・痺論』に、「黄帝問いて曰く、痺これいずくんぞ生ずるや。岐伯こたえて曰く、風寒湿交わり至りて合して痺となすや。」とある。分かりやすく注釈すると、黄帝が「どうして痺はおこるんだ?」と質問し、名医である岐伯が答えた。「風寒湿の三つの気が混ざってそして痺をなす」と、「痺症」の原因は風寒湿が中心だと示唆された。つまり、生体の弱りに乗じて外邪(風、寒、湿、熱など)が侵入することで関節部や筋肉に痺れや痛み、強張りなどの症状が現れ、「痺証」になる。痺証にはリウマチの他、慢性関節炎、腱鞘炎、座骨神経痛、頚椎症、五十肩、痛風、神経痛などの症状も含まれる。また、「其の風気勝るものは行痺となし、寒気勝るものは痛痺となし、湿気勝るものは着痺となすなり。」侵入する邪の種類により痺症は風痺(行痺)、寒痺(痛痺)、湿痺(着痺)、熱痺に分けられる。

 風痺の風は陽性の邪気で浮動性が強い、関節や筋肉の痛みの箇所は一定ではなく、ちなみに遊走性疼痛が特徴。他の痺証に比べ、痛みはあまり強くない。しかも風は動きやすいだけでなく、まるで上昇気流のように、上半身に症状が出やすい。その治療原則は、疏風通絡、散寒除湿。ツボを選ぶ際、膈腧、血海が常用される。

 寒痺(痛痺)における痛みの部位は固定し動かず、刺されるような鋭い痛みが特徴。寒邪は凝滞を主り、血流を著しく滞らすために関節が引き攣り、曲げ難く、強い痛みが感じられる。温めると一時軽快する。その治療原則は、陽気温補、散寒止痛。常用される施術ツボは、腎腧と関元である。

 湿痺(着痺)は粘っこい湿邪によるもので、関節が腫れて、重く感じ、固定した箇所の痛みで、慢性化になりやすい。湿邪が気血の流通を塞ぐため、皮膚や筋肉の痺れ症状も見られる。鍼灸治療の際、健脾除湿通絡の名ツボ、陰陵泉、足三里が必須。

 熱痺は関節、筋肉が赤く腫れ、熱感をもつ炎症症状が急速に進行し変化する可能性があるので、一般的に救急医療の範疇に入る。

 漢方を処方する際も基本的に上記の分類に基づいて、患者の一つ一つの症状と証に合わせて慎重に生薬を選ぶ。ここで一つ有名な「独活寄生湯」を紹介する。肝と腎でエネルギー(気)や栄養(血)が不足して機能が低下した「肝腎不足」の状態に、「風」「寒」「湿」の邪が侵入して起こる関節痛には、それらの邪を取り除く「袪風寒湿」と、肝と腎の機能を高める「補益肝腎」の作用がある「独活」と「桑寄生」が有効とされる。独活は、「ウド」という名でよく知られたセリ科の植物の根茎部で、解熱・鎮痛作用があり、桑寄生はクワなどに寄生したヤドリギ科の植物で、肝腎の栄養を補って、風邪、寒邪、湿邪を取り除いて関節の痛みを和らげるとされている。従って、慢性化になった風寒湿「痺症」、肝腎両虚、気血不足の虚証患者によく使われる。

 


医学博士 杜 一原(もりいちげん)
日本皮膚科・漢方科医師
BC州東洋医学専門医
BC Registered Dr. TCM. 
日本医科大学付属病院皮膚科医師
東京大学医学部漢方薬理学研究
東京ソフィアクリニック皮膚科医院院長、同漢方研究所所長
現在バンクーバーにて診療中。
連絡電話:778-636-3588 

 

 

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