2018年6月14日 第24号
ニキビにおける鍼灸治療は前回少し紹介したが、今回は主に漢方及びIPL/フォトフェイシャル治療に関する話をさせて頂く。漢方薬の作用は西洋薬の抗生剤のように直接アクネ菌を抑えることではなく、基本的にニキビができにくい体質に徐々に作り変えることを目的としている。一般的に、ニキビ体質に西洋医学で何かをすることはできない。人によって、吐き気や食欲不振などの副作用に苛まれ、抗生剤の服薬は続けられない場合、漢方治療に方向転換し、ニキビ体質の改善を図ることもある。
漢方医は処方を決める際、患者さんの全身状態を把握するために、四診(視る、聞く、嗅ぐ、質問する、触れる)を用いて、局所(額・頬・口周囲と顎そして前胸部、項部~肩胛骨など万遍なく)を注意深く観察する。皮膚に関係する症状はもちろん、例えば、常習性便秘や月経周期に伴う皮疹悪化の兆候がみられるならば、これを目標にした治療もしなければならない。また、ストレスや不眠の有無などの精神状況も考慮した上、総合的に判断して処方を選定する。したがって、ニキビだからこの漢方薬という訳ではなく、患者1人1人に合った漢方処方を吟味するので、決まったものはない。筆者の経験では、よく新しい患者さんに、例えば、「友達が清上防風湯と桂枝茯苓丸を飲んでニキビが良くなったので、同じ薬を処方してください」と注文付けられる。確かに、長い東洋医学の歴史を遡って詳しく検証すると、ニキビを治療する有名な漢方製剤は存在する。ただし、それぞれの患者の体質や症状、また一番大切な東洋医学の理論に基づいた「証」の診断が違うと、処方すべき薬も異なる。
漢方専門医に相談するメリットはこの点にある。東洋医学には長年の経験に裏付けられた体系的な理論があり、これを駆使することで漢方処方が活用される。ただ、症状がなくなると治療を続ける動機が薄れてきて、つい間が開いてしまう。そして、再び悪化して受診されるケースも少なくない。表面的な症状がなくとも、内面的に漢方医学の視点から考えてアプローチすべき問題が複数あるかもしれない。多少間が開いても症状のない時期にも治療を受けたほうが、全体的な治癒につながると思われる。
漢方では普通、生体の反応を過剰なものから正常に近づけるように導く。治療戦略として、まず炎症などの激しい症状を鎮静化し、次いでニキビ体質の改善に移り進む。症状のない時こそがニキビ体質改善のチャンス。東洋医学的にニキビは、体内で発生した余分な「熱」が皮膚に悪影響を及ぼし、そこに外界の熱(風熱)の刺激が加わったためにできたものだと考えられる。そのため、体内のどこに熱がこもっているかを見極め、その熱を取り除き、余分な熱が発生しないように体のバランスを整えることで対処していく。なお、ニキビの発生に、臓器との深い関連も勘案すべき。まず、皮膚呼吸と外呼吸の観点から皮膚は肺と関係している。これは、「肺は皮膚毛髪を司る」という東洋医学の古典理論に基づいたものである。さらに肺は脾胃(消化機能)や大腸と関係することから、皮膚は消化系とも関連があると考えられる。ニキビに限らず皮膚疾患の治療は、消化管の病変も注意深く探る必要がある。いずれにしても、順序良く一歩一歩体全体のバランスが整って、軽快期に辿り着くまでに時間が掛かるということを理解した上、漢方治療に臨む根気が大切である。
次は、最近流行っているIPLのニキビ治療について触れてみる。IPLとは「intense pulsed light(インテンス・パルス・ライト)」の頭文字をとった略語である。特殊な光を照射して、シミやニキビを改善する治療のことを「光治療」と呼ばれ、それに使用される機器の1つがIPL。IPLをシミに照射すると、シミのメラニンが破壊、排出され、シミが薄くなる。IPLをニキビに当てると、アクネ菌(ニキビを悪化させる常在菌)を殺菌し、ニキビを改善してくれる。実に賢いこのIPLが持つ、波長が長い紫色(420nm)の光は、アクネ菌が出したポルフィリンに反応し活性酸素を産出させ、アクネ菌を殺菌する。なお、アクネ菌はIPLの熱作用によっても殺菌される。また、IPLが持つ波長が短いオレンジ色(620nm)の光は、赤み(ヘモグロビン)に反応し、毛細血管を細くすることによって、赤みを抑えることができる。そして、このIPLのニキビへの効果、「アクネ菌を殺菌する力」と、「赤みを改善する力」は、正に抗生剤に匹敵するもので、しかも副作用が比較的少なく、ニキビに画期的な治療方法とも言える。
最後に、「治癒は人間自身にあり」とよく言われるように、各種治療はやはり補助手段であり、結局、患者それぞれ、規則正しい日常生活などを積み重ねる努力が望まれる。脂っこいもの、チョコレートなど甘いお菓子、お酒は控えめに、各種食物繊維、ミネラルを積極的に摂ることによって、便秘とニキビの悪化も防げる。充足な睡眠と適度な運動は特に大事である。また、皮膚のバリア機能を改善する目的で、ビタミンB群(B1,2,6,ナイアシン)を摂取することをお薦めする。最近の食事傾向からみると、高脂肪、高炭水化物(糖分)の食べ物が多く、ビタミンB群が不足気味なので、食事で不十分な場合にはサプリメントで補充するのが好ましい。
医学博士 杜 一原(もりいちげん)
日本皮膚科・漢方科医師
BC州東洋医学専門医
BC Registered Dr. TCM.
日本医科大学付属病院皮膚科医師
東京大学医学部漢方薬理学研究
東京ソフィアクリニック皮膚科医院院長、同漢方研究所所長
現在バンクーバーにて診療中。
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