2019年9月5日 第36号

 今回は渡辺ゆう子さん(仮名・ブリティッシュ・コロンビア州在住)自身の手記の形でお届けする。

 

『生きがい』って何かしら?

 もともとのんびりした性格ということもあり、今まで改まって深く考えることもなく過ごしてしまっておりましたが、その言葉を聞いて、自分の過去の生き方を思い起こし、いろいろ考えるきっかけになりました。

 私は大学進学で東京に出るまで、地方のとても恵まれた環境の中で、それこそ何の苦労も悩みもなく育ち、大学卒業の2年後には北米の大学院で勉強する主人と結婚することになり渡米しました。1ドル360円、日本から持ち出す金額制限が500ドルの時代です。環境は大きく変わり、それまで経験したことのなかったいろいろな壁にぶつかりました。まず英語という言葉と文化の違いの壁。奨学金で暮らす留学生のきつい経済状況。それに親姉妹や心を許した友人たちにも会えなくなった寂しさなど。それでも若かったからか、英語のクラスに通ったり、新しい出会いや節約生活も新鮮な思いで楽しんで過ごしていました。主人は特殊な分野の研究をしており、その分野でドクターコースまで学べる大学は限られていたので、その後尊敬する教授がいたカナダ東部の大学に移ることになりました。

 当時その町に日本人は大学に留学生数人がいただけで、大学以外の場所ではアジア人も少数でした。英語がスムーズに話せなかったからでしょう、思いもしなかったような人種差別も経験しました。反面、学生用アパートに住むアジア各地やヨーロッパからの留学生やその家族とは同じような状況にいて、お互いの悩みもよく理解できるということもあって、親しくお付き合いをすることができました。その町で暮らすうちに子どもも生まれ、私は慣れない子育てに夢中でしたが、同年代の留学生の奥さんたちには随分助けられました。主人は自分の研究のほか、 教授のアシスタントとしての仕事もあり、夕食後も大学の研究室に戻り、夜遅くまで学業に励む毎日でした。それだけに春のイチゴ摘みやワラビ採り、夏のキャンプや潮干狩りに、秋はリンゴや野生ブルーベリー摘み、そして冬にはスケートやそりすべり等、たまに一家で出かける休日はとても楽しみで、主人と私にとってはよい息抜きになりましたし、子どもたちもカナダの大自然を満喫して過ごし、よい思い出となっています。その当時はメールなどはなく、日本との連絡は高い電話代を避けて片道七日〜十日ほどかかる文通でのみでしたので、日本から遠く離れた寂しさはありましたが、子どもたちの成長が私の生きていく希望だったと思います。

 私が一番つらく苦しい思いをしたのは、やはり主人を病で失った時です。それは主人が博士課程を終え、政府機関に就職しやっと落ち着いた暮らしが始まってから10年もしないうちのことで、まだ子どもの上二人が10代半ばの多感な時期、末っ子も11歳というまだまだ手もかかる時でした。いつまでも悲しみに沈んでばかりもいられず、父親を失って精神的にも不安定になっている子どもたちを一人でこの先どう支え育てていけばいいのかと苦悩する毎日でした。3人を連れて日本に帰るか、はたまたカナダで暮らしていくか、パートで経理の仕事をしながら時間をかけてよく考え、カナダに住み続けることを決意しましたが、親として一人になった私に万一のことがあった場合を考え、一周忌の法要を済ませた後、思い切って日本に近いバンクーバーに引っ越してきました。引越しは私にとって大仕事で、経済的にも精神的にも両親の援助・支えがなければ、あの時の一歩は踏み出せなかったかもしれません。両親には心から感謝しています。

 ただ、父親を失い、友人や知り合いなど相談できる人が誰もいない土地に引っ越したことで、子どもたちには想像以上に負担やつらい思いをさせることになってしまいました。私は引越し後すぐに始めたフルタイムの仕事に必死で、子どもたちが新しい環境での生活で大きな不安や悩みを抱え傷ついていたことを深くくみ取ってやれなかったと、申し訳なく悔やまれるのですが、その子どもたちも成長独立し、つらい時期を経たことで 他人の痛みが分かり手を差し伸べられる大人になってくれたことがうれしく、今は私の一番の誇りになっています。

 私は病気で何度か手術入院もしました。困難に直面し不安な時に家族をはじめ友人やいろいろな人に助けられ励まされて乗り越えてこられました。『生きがい』ということとはちょっと違うのかもしれませんが、私が生きていく上で大切に思うのは、何より人と人とのつながりであり感謝の気持ちだと感じています。そして、たまのボランティアや孫の子守りなど小さなことでも、他の人の役に立てた時の喜びが自分の頑張る力になっているとも感じています。

 

 

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