2019年3月28日 第13号

 花粉症(Hay fever, Pollen disease)はいわゆる「季節性アレルギー性鼻炎」で、体内に侵入した花粉が鼻や目などの粘膜に接触することによって誘発され、発作性反復性のくしゃみ、鼻水、鼻詰まり、目の痒みなど一連の症状が特徴的な症候群のことであります。原因となる植物は、スギやヒノキ、イネ、ヨモギ、カモガヤ、ブタクサ、シラカンバなどが挙げられます。花粉は植物の種類によって飛散時期が異なり、また、気象条件によって飛散時期や飛散量に変動がみられます。寒冷な地域であるカナダではカバノキ科の花粉症が多く、6人に1人という統計数字もあります。

 花粉は鼻や目から体に取り込まれると免疫機構によって異物として認識され、IgE抗体が作り出され、IgE抗体は体のなかで、アレルギーに関わる肥満細胞に寄り添ってくっつきます。その状態で再度花粉が侵入すると、IgE抗体が花粉を抗原として攻撃し、肥満細胞を刺激してスタミンやロイコトリエンといった物質が分泌されます。これらの物質が神経や血管を作用することで、花粉症として発症します。

 花粉症の主な症状は「くしゃみ」「鼻水」「鼻詰まり」ですが、年齢、花粉飛散量、曝露時間などによって様々な症状が現れます。鼻の痒みや頭痛が起きることもあれば、花粉が目に入ると結膜にアレルギー反応が生じることもあり得ます。そして「目の痒み」「充血」「流涙」といった症状も認められます。アトピー性皮膚炎の合併のある患者には、皮膚に乾燥や痒みが増悪する場合もあります。また、鼻呼吸が困難で口呼吸の回数が増えると、口からウイルスが侵入しやすくなり風邪にもかかりやすくなります。

 花粉症の治療では、まず「原因物質の回避」が最重要と言われています。花粉の飛散情報に注意し、飛散が多い日は外出を控えるとともに,外出時は眼鏡やマスクを着用したほうが良いでしょう。西洋医学の薬物療法は抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬の内服や鼻噴霧用ステロイドホルモン剤が中心ですが、一般的な副作用として口の渇き、眠気、めまい・ふらつき、だるさ、下痢などがあります。そのため、車を運転する方、危険な作業をする方などは注意をする必要があります。また緑内障、前立腺肥大症がある方には原則使用できない薬となっています。

 東洋医学では、花粉症の一連の症状は体内の余分な水が粘膜に移行したために、くしゃみ、鼻水、鼻詰まり、涙、痒みなどのアレルギー症状につながると考えます。ちなみに、「体内の水分バランスの異常(水毒)」と認識しています。水毒とは必要な所に水分が少なく、特定のある部分にたくさん溜まっている状態、つまり「水の偏在」とも言えます。鼻水や涙目などはまさに必要のない場所に水分が貯留していることから生じた症状です。鼻詰まりも鼻の粘膜に水分が滞って膨張して起こりますので、何となく花粉症の時期にむくんでしまうと言う人もいますが、これも間違いなく水毒現象です。

 花粉症の漢方治療では、水分の偏在を解消し、水分バランスを整える「利水剤」を用います。有名なのは小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、一般的に、体力中等度又はやや虚弱で、薄い水様の痰を伴う咳や鼻水が出る方のアレルギー性鼻炎、花粉症に使用されます。小青竜湯は花粉症漢方薬の代表格であり、冷えた鼻を温め、水分循環を促し余分な水を体から排出することで、花粉症など鼻炎の症状を改善します。鼻がムズムズしたり、くしゃみが出始める頃或いは前から飲み始めるのが望ましく、症状が強くなる前に、早期の対処が肝心だと言われています。漢方薬には眠くなる成分が入っていないので安心して飲めるのもうれしいところです。受験生や車の運転をされる方には特に漢方薬が好まれます。また、体質改善のための漢方治療には普通「気虚」に着眼し、個別の「証」に合わせて漢方薬の処方をします。

 鍼灸治療も一つの選択肢です。しかも即効性を実感できる症例が数多く報告されています。花粉症治療によく使われるのは、目や鼻周辺のツボを鍼で刺激して過剰反応を抑制する施術法です。主に顔(小鼻と頬の境目あたり)に鍼を打ち、特に「迎香(げいこう)」や「鼻通(びつう)」という鼻詰まりに効くツボを通すことで症状の緩和を図ります。「鼻通」というツボは面白くても名前通り「鼻が通る」、鼻詰まりの解消に役に立ちますね。症状が現れる1カ月以上前に治療をスタートして準備することがよく薦められますが、症状が強くなってからも週に2〜3回のペースで治療を受ければかなり効果的だと思われます。

 さらに、鍼灸治療のもう一つの効き目は自律神経を上手く調整することです。自律神経を整えることで免疫力を高め、花粉を外に排出しようとする「抗体」の働きもある程度抑えられます。繰り返し回数を重ねて鍼治療をすることによって徐々に免疫力を高い状態に維持することができて、いろいろ不愉快なアレルギー症状も出にくい体質になります。

 


医学博士 杜 一原(もりいちげん)
日本皮膚科・漢方科医師
BC州東洋医学専門医
BC Registered Dr. TCM. 
日本医科大学付属病院皮膚科医師
東京大学医学部漢方薬理学研究
東京ソフィアクリニック皮膚科医院院長、同漢方研究所所長
現在バンクーバーにて診療中。
連絡電話:778-636-3588 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。