2020年3月26日 第13号

 夕方になるとサンフランシスコにいる娘から毎日電話が入る。特別用事がある訳ではない。ただコロナウイルス問題で、自宅滞在を余儀なくされている老いた母が淋しいだろうという、彼女の思いやりである。電話での話は雑談だけだが、今日は「ママ、日本っていいよね。だってさぁ、日本人の挨拶ってね。丁寧に頭を下げればいいでしょう。イタリア人は頬を摺り寄せたり、抱き合ったりするから、コロナウイルスどんどん広がるのよ。でもそれって、彼らの習慣だから変えないのですってよ」「そしてね、日本でウイルス用の薬が発売され、それが効くそうで、もう外国へ売り出しているって」「アメリカでは無視しているけど、日本の薬、効き目があるんですって」「へぇ、本当にそうかもしれないね」日本びいきの娘から次々に日本の情報が入ってくる。でも日本人の良い習慣にふっと気付かされる老婆である。

 昨年、腎臓結石の手術をしてくれたDr. Himidizaehから電話を受けた。「はい、分かりました。今晩、指定の薬局へ行って薬を受け取ります。お手配有り難うございます」そう言って受話器を置いた。先日の尿と血液検査結果薬が必要と分かり、ドクターが薬の手配をし、病状の説明もあった。コロナウイルス問題で自宅から出歩けないから助かった。そして、次から次と医者の世話になる私だけれど、このバンクーバーで出会ったどの医者も真剣で誠意あるその治療態度には頭が下がる。感謝してもしきれない思いだ。そんなときもとき、仲良しだが互いに忙しくてちょっと疎遠になっていた友人にメールを送ったら返信を受けた。

 「そうなんです!母は今日で25日も入院しています。年齢的にも、この先カナダに貢献することはない90歳をこした母の為に、ここまで病院側は手厚い看護をして下さり感謝の念に堪えません。私が母に成り代わって今後もボランティアに励む心算ですが、馬車馬のように働き続けてもカナダから受けた御恩を返すのは並大抵ではありません」

 実はこの老婆、脳卒中に始まり、交通事故で足のケガ、胆石、腎臓結石、食中毒、肩の骨の脱臼、その他いろいろ。これまでどの位救急車を使い、入院しただろう。「911用の回数券」を買ったらぁ? と友に言われたなぁ。

 ある時、ファミリードクターの Majeed が言った。「今晩、7時にクリニックに来て下さい」。「ハイ」と私は答えたが「そんなに遅くクリニックは開いているかしら? そんな思いで7時に一人で行った。着くとドアは閉まり、中は真っ暗だ。「あれー、聞き違いかなぁ?」周りをうろうろしていたら、一台の自転車が走ってきた。何と自転車の人はDr. Majeed だった。ヘルメットを被り自転車でクリニックへきたのだ。2人で中に入り、そこで手渡されたのは、約30ページ程の私のメディカルレコードだった。2冊あって、彼女は「これから貴方の行くインドで、もし病気になったら、このメディカルレコードを必ずインドの医者に見せなさい。そしてもう一冊はご家族に渡して下さい」と2冊の私のメディカルレコードを手渡す為に夜7時のアポイントをくれたのだった。

 そしてその数日後、私はインドへ神の化身といわれる「サイババ」に会いたくて一人旅立った。本当に彼女のお陰で心安らぐ2週間の旅だった。約30年近くお世話になったが、彼女はある医療研究の為、2018年にそこを退職した。その後、私にファミリードクターはしばらくいなかった。しかし、数カ月後にはまた若く美しいDr.Govindagueとサイババ奉仕センターのボランティア活動中に出会い、彼女は喜んでファミリードクターになってくれた。彼女のファーストネームは「アムリタ」という。アムリタはサンスクリット語で「甘露」、インド神話に登場する聖蜜で、現在でもインドでサイババの写真から聖蜜やビブーティと呼ばれる聖灰が出る家がある。80年の生涯で老婆はハッとするような不思議現象をインドで、沖縄で、カンボジアのバッタンボン、またニューヨーク、カリフォルニアのコルーサ、また東京の銀座で、ある時は家庭画報の取材で桐島洋子先生に同行し、いろいろ見て体験した。そして、今その不思議現象は本当にあると思う。それは全ての人が持つ「エネルギー」「波動」「阿頼耶識」であり、未熟な私の数々の「病気」、それは多分「阿頼耶識」から出る自分自身の意識と計らいかなぁ? 本当に「苦労は買ってでもしろ!」かぁ。日々、感じる「八百万の神」への感謝、乗り越えた過去の苦労にさえも感謝、有難いなぁ。

 コロナウイルスで健康が心配な世の中で、子ども達に、友達に、励まされながら、この老婆は軟禁状態。でもどうやら生き延びそうだ。たった今、テレビで世界中に広がるコロナウイルスを乗り越えようと世界各国24人の歌手が「世界は一つになる」「私達は幸せでないとねぇ、その為に生きているのよ」と歌っていた。

許 澄子

 

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