2020年2月27日 第9号
昨日、友達を誘って日系文化センター・博物館の古本市へ行った。久しぶりの友達とも会え、どっぷり本にも浸かる気分だった。大勢が楽しそうに売店で食べ、飲み(酒ではない)、入り口近くには、幾つもテーブルが用意され、家族連れもそこで団欒。「老婆のひとりごと」の読者が、声をかけて下さった。「読んでいますよー」その時、老婆は只々嬉しいのだ。
本当にこの古本市は楽しい。本の整理や、前回はスタッフルームの受付等、ボランティアをやらせていただいた事もある。今回は「ワー、重い!」買い込んだ。沢山の本を「国宝ローズ」提供の、しっかりした木綿バッグにレジ係りが入れてくれた。「よいこらっしょ!」駐車場は満杯で、遠くに駐車した車に運んだ。そして、帰りは車で家まで40分、胸はワクワク。何故って?今買ったばかりの本を読みたくて、読みたくてたまらないのだ。結局、14冊も買っていた。6月か7月にまた古本市があるという。それまでに読み終わった本はまた寄付になる。つまり古本市にこの本たちは戻るのだ。1冊2ドルで28ドル、3、4カ月後にはまたドネーションになるから、丁度14冊の本を3、4カ月28ドルの購読料で借りたみたいだ。
会場で出会った人が老婆に言った「あんなに沢山の本、文庫本は1ドルで、他は2ドルで売ったら、もっと沢山売れるのにねぇ。買った本、読んだらまた皆ドネートするから、安くしてくれないかしらねぇ」老婆はその時「はぁ?」思った。「そうだ!」置き場所に困るくらい沢山本のドネーションがあるなら、本当にそうしてくれたら嬉しい。
それからふっと気が付いたのだが、色々な本を手に取り見ていると、本を寄付した人宛てに、その本の著者が記念にサインしたものがあった。サインだけでなく、その著者と受け取り人との関係も分かる、心を込めた言葉が書いてあった。老婆は自分ならこれはドネーションに出さず大切に取って置くだろうなぁと思ったのだが…。もしかしたら、その本をドネートした人はもう亡き人かもしれない。ふとそうも思った。きっとこの古本市は多くの人の思い出の場所でもあるのかもしれない。
そして、さっそく寝床前、買ってきた「開高 健」の古い文庫本「生物としての静物」を読み始めた。読み始めたら、たばこや酒、男のセックスの話の多い事、多い事。この本、この老婆は「間違って買ったかなぁ」と思った途端に読み始めていたページに、あるアメリカの大金持ちの事が書かれていた。その人が一人アフリカのある所へ「特別仕立ての暑さよけの服」を着て「自家用機」で「魚釣り」に行った話だ。その大金持ちがアフリカの川で魚を釣っている。その隣りでふんどし一丁、裸の現地の老人がやはり釣りをしていた。
2人の会話:大金持ちは「何とかこうしてゆったりと魚釣りができるようになりたい」と子どもの頃から願い、ニューヨークで色々学びながら、靴磨きから、ウエイターに始まり苦労し働き、そして、今は自家用機2機もち、ニューヨークでペントハウスに住み、運転手を雇う暮らしができるようになった。すると現地のふんどし老人「そんなに大変な思いをしてきたのですかぁ、私は子どもの頃からずーっとこうして魚釣りを楽しんできましたよ」
その時、裕福な家に生まれながら選んで貧しい生活の中、子どもや周りの人々に愛を振りまき、静かに一生を終えた良寛さん、また、映画「モリのいる場所」の熊谷守一画伯の様に庭にござを敷き横になり、アリの動きを楽しみ、また猫と遊び、青空を友達とし97歳まで生きた人をふっと思った。人間生きていくのに色々欲しいものがある。
ある人は名誉、ある人は金、またある人は「何だろう…?」私は健康が欲しい。ある時、大きなパーティーがあった。「お久しぶり」とニコニコ声を掛けてくれた人がいた。何時も美人で素敵な奥さんと一緒の方だから「アレー、今日はお一人ですかぁ?」老婆が聞くと、彼はステージの方を「あっち!」と片手を上げて、奥様の居場所を教えてくれた。そこは総領事の席のある所で奥様はそこから離れない。ご主人は「ハハッ!」と、にこやかに老婆と一緒に笑う。良いご夫婦だ。
さっき、日本で増加している車上生活者の特集をテレビで観た。ああ、彼らは「立って半畳寝て一畳」!でも「お風呂はどうするのかなぁ?」と思ってグーグルで調べたら、なんと450円で入れる公衆風呂があるそうだ。でもこの老婆今80歳、物忘れが多く「馬鹿ねぇ、あんた」なんて言われながら、結構、楽しく、一生懸命生きる自分が愛しい。車上生活者には、なれ…?
許 澄子