2019年10月24日 第43号
寝床で老婆は絵本を読んでいた。星野富弘の花の詩画集だ。
誰かが言った。「あっそう…、あなたが老婆のひとりごとを書いてるのぅ」はい、そうです。書き始めてもう3年少々経ちました。毎日、放送されるニュース、購読する新聞雑誌、読めば読むほど暗いニュース、あちこちで戦いがあり、暴動があり、胸が痛くなることばかり。何か読んで、「ああ またかぁ」でなくて「まぁ、いいかぁ、そんなことあっても」といった感じで軽く読める物があってもよいのではぁ?。まあ、そんな思いで書き続ける「老婆のひとりごと」。けれど、なかには「馬鹿なことばかり書いて」と思う人もいる。でも、仕方がない。今日もまたシリアとトルコの戦争勃発か?
道の割れ目で、
蟻とスミレが暮らしている
蟻と花さえ助け合えるのに
同じ人間 どうしてきりもなく
戦争するのだろう
毎月あるいろいろな行事や企画に、この老婆、せっせと参加させてもらう。本当に学ぶことが多い。でも、そこへ行くと、やさしく手を貸す人、耳になって難聴者を助ける人もいる。またなかには偉い人や、教養があるだけでとても得意げな人、容姿端麗の上におしゃれ、素敵な人もいる。ひがみかもしれないが、難聴老婆を極端に軽蔑の目で見て去っていく人もいる。もうそんな事に慣れているから、今は平気。でも以前はやはり悲しいと思った。
この花はこの草にしか咲かない
そうだ
私にしか
できないことがあるんだ
道端の花のように
ひっそりと
誰かの役に立てたらいいなぁ
神様だけが知っているんだ
赤い花 白い花 色々あるけど
葉の色はみんなみどり
肌の白い人 黒い人
けれど内を流れる
血の色は みんなおなじ
ある時、作家の桐島洋子さんと話した。「ねぇ、目と耳とどちらかを選ぶとしたどちらがいい?」(これはどちらかが病気になった場合のこと) そして、彼女は目が大切と言い、私も目が残った方がいいと言う結論。つまり難聴は盲目より少しマシ、だから我慢しなさいと自分に言ってみる。
この数日、台風19号日本のテレビは被害報道の連続だ。やはり温暖化の影響なのはこんな老婆でもわかる。そして、星野富弘さんは、2010年にこんな詩をかいていた。
地球にとって一番役立たずで
害になっていたのが
私たち人間だったなんて
それも最近やっと気付いた
ところです
こうして、ああでもない、こうでもないとぶつぶつ言いながら生きているこの老婆、後一ケ月で80歳です。そして、この80年、思い返すとどれだけ多くの人たちのお世話になって生きてきたことか。ありがたいことです。
星野富弘さんは高校の体育教師でしたが、怪我をして、手足が不自由になり、歩けなくなりました。土をほることも、スキーをすることもできなくなりました。でも神様ありがとう、あなたがもたせてくれた、たった十グラムの筆ですが、それで私は花を咲かせたり、雪を降らせたりできるのです。神様本当にありがとうと言いながら、何ともいえない優しい絵を、口に筆を咥えて描いています。
思えば卒中で右手の痺れ、難聴で、歩行難。でも、かすかに音は聞こえ、足を引きずりながらもせっせと歩き、どこへでも出かける元気もあるこの老婆。80歳の誕生日は「感謝の昼食会」として、声をかけたらなんと80人の友人、家族が来てくださるのですって!神様、本当にありがとう。
許 澄子