2019年9月12日 第37号

 今「七十から更に聡明な許澄子様 桐島洋子」と書かれた「50歳からの聡明な生き方」と言う一冊の本を読み返している。洋子先生が澄子を励まして書いた一行だ。

 何だか先月末から体調が悪く入退院を繰り返すこの老婆に、近所の優しい女性が「歌ソロサロンコンサート」に行かない? と声を掛けてくれた。「ああ、歌が聴ける」と舞上がる思いで、その日「コンサート」に連れて行ってもらった。驚いた!本当に驚かずにはいられなかった。ソロで歌う人、ピアノを弾く人、ヴァイオリンを弾く人、それぞれが素晴らしい。ソロで歌う一人一人、個性豊かにそれもかなり美声で声量もある。この老婆、自分で歌う事は無いが、聴きにはどこへでも行く。ロンドンのコベント・ガーデン・ロイヤルオペラ、ニューヨークのメトロポリタン・オペラ、サンフランシスコ・オペラと行ける所はUBCオペラ、バンクーバーオペラ等、一人でも行く。その日の歌ソロ、お世辞でなく一人一人の歌声は本当に素晴らしい。「O mio babbino caro」とか「Ombra mai fu」となじみ深い曲がうれしかったし、特に「アンコ椿は恋の花」を歌った時の観客の喜び方はすごかった。本当に楽し気に歌うのだ。そうそう、「子守歌」と「Russian Lullaby」を歌った人はハーモニカをポケットから出し静かに吹き、観客は引き込まれる。こうした観客と演奏者とのぴったり合体、その瞬間が素晴らしかったなぁ。そして、ハワイアンダンス、あの素敵な衣装は踊る人を10歳も20歳も若く見せ、踊り手はもう踊る自分自身に酔っている。「笑顔!」踊っている間中、楽しくてたまらないと言いたげな笑顔だ。観客も一緒に笑顔になっている。

 やがて、歌ソロコンサートが終り、各自が持ち寄ったポットラック。まあ色々美味しい、そして、きれいな食べ物が並んでいた。そばにいた女性に「又来たい」と老婆が言うと「ぜひどうぞ、また来年やりますから」と言ってくれた。

 そこでその彼女が「貴方は桐島洋子さんと友達ですねぇ。私は彼女の本を沢山読んで影響を受け、そして、今カナダにいるのですよ」とおっしゃったのです。「老婆のひとりごと」を読み知ったのでしょう。たった今、このコンサートでずっとピアノを弾いていらした方なのです。

 私は来加前ドイツの航空会社勤めだったから、ドイツにも友人がいた。そして、洋子先生50歳で家族卒業世界一周旅行の時立寄ったドイツで、私の友人と会い、「バンクーバー」がどんなに素晴らしい所か聞かされ、世界一周旅行解散場所はニューヨークで、そこからひとっ飛び。「そんなに素晴らしいバンクーバーへ行かなければ」とやって来た。当時、洋子先生50歳、紹介された私は48歳だった。その時、彼女と私は2人で新聞広告を見ながら売り家を見て歩き、彼女はポイントグレーに海の見える一軒家をあっという間に買ったのだ。今、彼女は82歳、老婆は80歳になる。長い付き合いだ。

 そのピアニストが言うとおり、北米には沢山の桐島書の愛読者がいる。それを洋子先生はご存知で、確かに自分の本の影響を受けた人は沢山いる、「でも、上手く行った人ばかりでないからね」いつも謙遜な反応だ。

 この老婆が色々洋子先生の事を「老婆のひとりごと」に書くと、その批判も驚くことに日本にいる彼女に届く様だ。それで、ある時、「洋子先生、書いても良いですか?」と聞くと「いいわよ。私は過去にもう色々書かれつくされているからね」と明るく仰る。お会いする度に歳相応なおしゃれが素敵な先生だ。80歳で付け睫毛に目の周りを真っ黒に線を入れ、顔中色々塗りたくっているおしゃれなお婆さんもいる。それはそれでよいと思うが、洋子先生の様に地味な色の服を適当に身体の線も隠したり、素敵な帽子をちょっとかぶる、そんなおしゃれが私はたまらなく好きだ。綺麗なのですよねぇ。

 今年の夏は6月23日から洋子先生は介護士を連れて来加した。ずっとお願いしていたとおり、2人は我が家に泊まって下さった。途中で彼女の娘さん友人宅や、私のダウンタウンのコンドや、島へ行ったりなさっていたが、一緒に過ごす一時はやはり楽しい。   

 ある朝、新報が届いたので「老婆のひとりごと」を見せたら、ゆっくり読んで、「少し上手になったわね。ハハッは」と笑っていらした。「頭のいい女よりも『聡明な女』になりなさい」「聡明」とは頭の中身だけでなく心のありようも含めた評価であり、知情意のバランスが絶妙で人柄品格も申し分のない人を「聡明」と言うと彼女が言う。彼女から学ぶことは多い、そして彼女は生涯私の大切な「先生」なのだ。

 「歌ソロコンサート」思い切り楽しんで帰宅した後の事。僻みっぽいこの老婆、何だか神様がいるなら、神さまって随分不公平だなぁ。歌えない、踊れない、楽器の演奏も出来ない自分が情けない。でも、まぁいいかぁ。食べることは出来た「美味しかったなぁ」あの砂糖の桜菓子。洋子先生への思いが自分と同じ人に出会えたのも嬉しかった。

許 澄子

 

 

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