2017年8月31日 第35号

 「聞いて聞いて、あのねぇ」と老婆は話し始めた。「えー、前歯全部がびっしり金歯?」「うーん、そうーなのよ」「前歯全部金歯、金キラ金、一人だけではないよ。出会う老女という老女が金歯なの」そんなのある?あったのですよ、それがぁ。そしてねぇ、もっと不思議なこと。それはね、私達皆で集合写真を撮って、ふっと周りを見ると「あれー、なんでぇー?」。全く知らない人たちが、だまーってニコニコ、我々のグループ写真撮影に加わっているのよ。黙っていたニコニコ老女たちの口元をみると、キンキンキラキラの素晴らしい金歯なのです。2本ではありません。前歯ゼーンブが金キラキラなのですよ。そして観光バスで行く先々、見る人見る人の服装がねぇ、それは見ごとに舞台衣装のように華やかなの。乾いたドブの中にうずくまって働く金きら衣装の女性に桐島さんが声をかけると、これまたにっこり笑顔で立ち上がり、写真撮影をさせてくれた。笑顔がいっばいの砂漠の中の一国、それは「ウズベキスタン」。

 ある時、作家の桐島洋子先生から連絡をいただき、「娘のカレンが企画したウズベキスタン旅行に、本人が急に行けなくなったの。あなた行かない?」とお誘いを受けた。老婆はもう、うれしくてうれしくて「OKです、行きまーす」。この年(老婆はいつも自分の年齢で行動範囲を規制する傾向がある)になって行ったことのないに国に行けるなんて。それも洋子先生と一緒。彼女との旅行で、過去に一度も失望経験はなし、つまり成功経験だけ。

 そして、老婆はその10名程のウズベキスタン旅行グループに参加。でもね、行くのはそう簡単ではないのですよ。こんなメールを旅行社から受け取った。許様、お世話になります。査証ですが、日本人は空港で取ることはできませんし取得に10日間かかります。駐日ウズベキスタン大使館に問い合わせたところ、カナダ国籍の人はカナダに大使館がないのでアメリカのワシントンの大使館またはニューヨークの領事館に電話して指示に従ってくれとのことです。タシケントの空港で取れるかどうかは日本では分からないとのことです。カナダの旅行社にお友達がいらっしゃるとのこと、聞いてみて下さい。弊社でご用意できる書類が必要でしたらご用意いたします。なるべく早く大使館にお電話をして下さるようお願いいたします。そこはまた、外務省「レベル1」の渡航危険度ランクの国でもあります。それは首都タシケント市を含みます。

 老婆は初めてカナダとウズベキスタンの国交がないことも知った。ただ、いろいろあり長くなるので説明は抜きにし、とにかくその国に老婆は行くことができた。首都タシケントを始め、藍の町サルマカンド(ああ美しい!感動)、プハラ等…あとはただ老婆のため息。

 …バスは鬱蒼と木々のしげる、といっても砂漠のこと(バンクーバーの木々とは違いますがね)。とある公園の前で下車し、徒歩で数分のところ、私たちはウズベキスタンの首都・タシケントにある公園の中にある、大きな古い大きな建物の前に立った。「日本兵捕虜がこの劇場を建てた。ソ連4大劇場の一つとされた『アリシェル・ナヴォイ記念国立アカデミー大劇場』で、町がつぶれる大地震にも耐えてきた堅牢な造り、美麗な内装。日本人捕虜たちの誇りと意地をかけた仕事は、収容所長をはじめ、現地の人々の心を動かし、語り続けられ、今もなおここの人たちが親日感情を持つ理由である」、以上がロシア人日本語ガイドさんの説明だった。

 それから数年たった今年、外国に住む日本人の歴史と現在について老婆が考えさせられる機会があった。最近入会した櫻楓会(おうふうかい)から、「砂漠の中の日本庭園マンザナー日系人強制収容所発掘から読み取る日本文化の具現者たち」と題する特別講演会の案内を受け取った。日系ガーデナーズ協会の主催で、第二次世界大戦中に日系人が収容された「Manzanar internment camp(満座那)」の話だった。そこは全米で10 カ所の収容所中最もよく知られているところで、最大人数1万46名が収容されていたことがあった。総数は合計1万1070名、アメリカ全土では11万名以上の日系人が強制抑留、多くはその財産全てを失ったと聞く。とにかく、この講演会で感動したのは、この収容所に約200人の日本人ガーデナーが収容され、所内に美しい日本庭園をいくつも造ったことだ。その時、会場で見た庭園の写真はどれも美しかった。そして、撮影されている人たち全員の素晴らしい笑顔に驚く。とても強制収容所の収容者とは思えない。その造園にはきっと米国人の協力もあっただろう。日本人捕虜がウズベキスタンでオペラ劇場建設に誇りと意地をかけて仕事をしたように、このマンザナーの日本人捕虜たちも日本人の心意気(誇りと意地)で心を込めて砂漠に庭園を造ったのだろう。心意気かぁ、演歌の世界かな?砂漠にできたその池は岩と石で囲まれ、水がいっぱい溜められ、石橋まで造られていた。そして、今回の講演にバンクーバーへいらした(米国人も含む)方たちが、今は砂にうずまったほとんどの庭園の発掘を始めている。皆さんも発掘運動に参加しませんか?ということだった。

 老婆は 日本を離れて60年近く。振り返ると「親方日の丸」に随分守られて生きてきたと思う。そこには昔から外国に居住した日本人のあらゆる行いが現在につながり、さらに遠い将来にもつながっていることを思う。外国に一歩でも出た日本人のひとりとして、今居る国で、今を大切に、すべてに誠実に生きねばと鞭打つ気持ちになる。杉原千畝氏の「命のビザ」や、トルコと日本を結ぶ「エルトール号遭難事件」。その時には、誰に褒められるわけでもない、誰に注目される訳でもない、それでも「愛と慈悲の心で誠心誠意行った」行為により自分の心が喜ぶことになる。私はそれを人に笑われながら、「天に貯金」「天に貯金」と言いながら、一生懸命やって生きていきたい。ああ、「天に貯金」かぁ、楽ではないけどねぇ。

許 澄子

 

 

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