2017年10月19日 第42号

 日本で、かつて「痴呆症」と呼ばれていた「認知症」が、厚生労働省の「『痴呆』に替わる用語に関する検討会」の報告書をもとに、正式に「認知症」に変更されてから、早くも13年になろうとしています。メディアでは、「痴呆症」という呼び方をしなくなりました。認知症の人を介護している家族や周りの人は、敢えて新しい呼び方をします。しかし、一般の人の日常会話の中では、「痴呆症」という表現が根強く残っています。

 認知症の人やその家族をサポートする非営利団体を共同設立してから、認知症をテーマにしたワークショップでお話する機会が増えました。また、私自身が、認知症が直接のテーマでなくとも、健康、加齢に関するワークショップに参加することが増えています。そこで感じているのは、「痴呆症」という表現が、全くなくなっていないということです。一般の人ならまだしも、日本で医学に携わっていたという人たちでさえ、認知症をまだ「痴呆症」と呼んでいるのです。

 インターネットの普及により、海外に住んでいても、日本の情報が簡単に手に入るようになりました。しかし、実際、国内に住んでいないとなかなかわからない流行語や、トレンドの変化によって生じる、微妙な言語表現の変化にはなかなか追いつけないという現実は確かにあります。それはわかっていても、認知症については門外漢だったかつての医師にとって、この表現の変化は、一般の人にとってのそれと変わらないのか。失望を感じながらも、それが現実であれば、 認知症を疑いもしなかった母のかかりつけ医の、あまりの知識のなさにも納得がいきます。

 また、私が認知症の啓発活動をしていることを知っている人たちと認知症の話をしていて、会話の中で何度「認知症」と繰り返しても、「認知症」と「痴呆症」は別物だと思っているのではないかと、こちらが不思議になるくらい、「痴呆症」という言葉は置き換えられないまま話が進みます。今は「痴呆症」と呼ばないこと、この表現が差別的な言葉と取られ得ることをいくら言っても、相手の意識に全く入っていかないこともあります。話す相手に「認知症」との関わりが少なければ少ないほど、この傾向が強いようです。

 前述の検討会で、用語の検討が行われた背景に、「痴呆」という用語に侮辱的な意味合いがあること、 症状としての本質を正確に表しておらず、誤解や偏見を生んできたこと、この用語が羞恥心や恐怖心につながり、早期発見・早期診断を妨げていることなどがありました。「痴呆」という字面から見ても、明らかにいい印象は受けません。最終的に「認知症」という名称に落ち着くまでに、国民の意見や有識者と呼ばれる人たちの意見に、賛否両論ありました。しかし、自分や家族が認知症でなければ、「認知症」だろうが、「痴呆症」だろうか、どうでもいいことです。「他人事」ですから。いくら呼び方を変えても、人々に刷り込まれた誤解や偏見はそう簡単になくなるものでもありません。だからと言って、現状に甘んじる訳にもいきません。認知症と診断される人の数は年々増え続けているのです。 30代でも認知症を発症します。

 認知症は、「誰か」がかかるのではなく、「誰も」がかかり得るもの、という理解がない限り、認知症に対する意識は何も変わらないまま、その数は増え続けます。自分だけは大丈夫という根拠のない確信と、そんなことは考えたくないという現実逃避は、問題意識のないまま何もしないよりたちが悪い。認知症は、その種類により、実際に症状が出るまで20年以上かけて進行することもあることを知った上で、今、自分にできることをするしかないのです。そのひとつとして、認知症を正しい名称で呼ぶことから始めてみてください。

 もう、「痴呆症」と呼ばないで!

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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