2018年12月20日 第51号

 「エイジズム」とは、広義では「年齢差別」、狭義では「高齢者差別」を意味し、ある年齢集団に対する否定的もしくは肯定的な偏見または差別である、とされています。「人種差別」、「性差別」に並ぶ、重い差別と主張する研究者もいます。

 医療の分野は、特に「エイジズム」の影響を受けやすいと考えられています。その理由として、この分野では、症状や障害に注目する必要があるため、加齢の過程を重視する傾向があるからです。また、高齢者へのサービス提供者である老年医学者は、そのサービスの提供先が高齢者であるため、その役割上、年齢の違いを重視せざるを得ません。

 例えば、加齢に注目しすぎるために、「もう年だから」という理由で、必要かつ適切な診察はせず、それが誤診となる可能性が考えられます。患者が訴えるよくある症状に対し、それに合わせた一般的な薬を処方することで対処することになります。もし、本人や家族からの訴えがなければ、専門医への紹介もないまま、病名をつけてしまうことになりかねません。しかし、「セカンド・オピニオン」を求めることが許容されるようになり、日本でも医師の所見に対する風潮が変わってきました。ひと昔、ふた昔前の、「お医者様は神様」の時代は、終わりを迎えています。しかし、まだまだ幅を利かせている、通り一遍の措置や治療しか行わない、時代遅れの「お医者様」がいなくなるまでには、しばらく時間がかかるでしょう。

 ここで、ある高齢者に、加齢によりかかりやすくなる病気や認知症が疑われる症状があると仮定します。かかりつけ医が、ごく簡単な問診をしただけで、「年のせい」で片付け、加齢による症状と診断すれば、重篤な病気や、本当に認知症の症状だったとしても、専門医の紹介を受けることはありません。本人や家族がどうしても精密検査をしてほしいと訴えれば、状況は異なるかもしれませんが、高齢者本人が、そこまで主張することはあまり考えられません。

 では、この医師の元に、同じような症状を訴える壮年期の患者が診察を受けに来た場合、医師はどのような対応をするでしょうか。「年のせい」で片付けられる年齢ではないため、加齢ではなく、何かの病気の症状の疑いを前提に、精密検査をしましょう、ということになる可能性は、高齢の患者に比べて高いでしょう。

 しかし、特に高齢の場合、日本から移住し、永くカナダに住んでいる人でも、昔の習慣から、医師に質問をしないことが多いのは事実です。「インフォームド・コンセント(告知に基づく同意)」が特に重視されるカナダでは、医療措置を行う際、正しい情報を提供した上で、本人の意思を尊重した同意を求めます。ですから、経過観察のための受診でも、必ず最後に質問があるかどうか尋ねられます。それでも日本の方は、「ありません」と答えることがいかに多いか。間接的に医療の現場に立ち会う仕事をしていて、いつも感じることです。

 確かに、医療従事者は、命を預かる特別な専門職であることに変わりはありません。しかし、医療従事者の言うことがすべて正しいとは限りませんし、その意見が自分の意思に反するものであれば、自分の意思を貫くしかありません。また、医療的措置や意思決定の過程で、年をとっていること、加齢による疾患があること、その疾患が原因で、身体に不自由があることを理由に、差別的な扱いを受けることは、あってはならないことです。医療従事者だけでなく、高齢者とその家族との関係にも、高齢者に対する差別的な扱いが存在します。特に、意思決定能力があるにも関わらず、身体的な機能や能力が低下している場合、医療的措置や意思決定の過程で、家族が本人の意見を聞かず、重要な事柄を決めてしまう形で現れます。

 加齢を理由とする不当な扱いは「差別」であることが、社会での一般認識にならない限り、「エイジズム」はなくならないでしょう。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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