2019年8月15日 第33号

 オンタリオ州の複数の介護施設で働いていた元看護師が逮捕されたのは、約2年前。今年の7月末、その事件の「公聴会」が行われ、事件の真相について公に報告されました。この事件の裁判の判決が下ったのは2017年。被疑者である元看護師に、第一級殺人、殺人未遂、および、加重暴行の罪で、 終身刑が言い渡されました。受刑25年を過ぎるまで、仮釈放の審査を求める権利は認められません。

 事件が明るみに出たのは、この元看護師が薬物依存症および精神障害の治療施設に自主的に入院し、人を殺したことを周囲の人に話したことがきっかけです。その後、以前働いていた他の施設での事件も明らかになり、2007年から2016年の間に、オンタリオ州にある複数の介護施設で、合わせて8名を殺害、4名が殺人未遂、その他に、2名に加重暴行を加えました。どの施設でも、主に、抵抗する、暴れるなど、特に介護に手間のかかる入居者を対象に、インスリンを過剰投与し、死に至らしめるというのがその手口です。入居者は、自室のベッドで亡くなっているところを発見される、あるいは、急に病状が悪化し亡くなる、死因は主に「心臓発作」というのが、その典型的なパターンです。カナダの犯罪史上、最悪の連続殺人事件のひとつとされています。

 供述調書を取るため、警察で自供する様子を撮ったビデオが公開されていますが、 まるで日常会話をするかのように、時には冗談を交えながら質問に答えています。それは、人の命を殺めたという嫌疑がかけられている「被疑者」の会話というよりも、まるで他人事の会話をしているようにさえ受け取れます。しかし、この連続殺人事件は、彼女が事件の容疑や調査の対象でもなかったため、 自供がなければ解決を見なかったと考えられています。

 高齢者の多い介護施設で、入居者が亡くなることは特に不思議なことではありません。ですから、入居者が亡くなっても、死因によほど不審な点がない限り、通常、検死は行われません。死因が特定できるような毒物を使用していれば、そこから足が付くことが考えられますが、インスリンは治療薬として使用されているため、はなから疑わないでしょう。遺体が火葬されてしまえば、その後、再捜査することもできません。その結果、事件が明るみに出ないまま、最初の事件から10年近くが経過し、8名もの人が亡くなってしまいました。

 医療および介護施設での管理体制の弱さが、周囲が事の真相に気付くのを遅らせ、このような犯罪に導いた大きな原因と考えられています。この元看護師は主に夜間勤務をしており、薬の投与も含め、施設全体を夜間ひとりで看ることもあったそうです。途中、何度か解雇されながらも、看護師免許を剥奪されることはなかったため、また新しい介護施設で働き始めていました。「公聴会」で読み上げられた提案は91項目におよび、州政府は、同じような事件が起きることを防ぐため、「予防」、「認識」、「阻止」、「発見」を目標に掲げ、州内の介護施設に対し、管理の強化を提案しています。

 自分や家族のために介護施設を選ぶ時、 最も相応しいと考えられる場所を求めて、いろいろな事柄を検討します。しかし、施設が決定し入居しても、日常的にそこで働くスタッフまでは選ぶことができません。日本でも、介護施設での職員による虐待や殺人が時々事件になりますが、まさか、自分の家族がその被害者になるとは夢にも思いません。仮に虐待や暴力の被害を受けていても、寝たきりや意思疎通ができない状態であれば、それを訴えることはできません。

 「公聴会」でも述べられていますが、医療従事者による連続殺人は稀ではあるものの、19世紀初頭に既に記録が認められている現象です。同じような事件はどこででも起こり得ることだけでなく、介護施設を利用する側もそれを自覚する必要があることを改めて思い知らされました。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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