2017年9月28日 第39号

 昨年、日本のある放送局の特集番組で、介護殺人の当事者がインタビューを受けていました。動画共有サイトで配信されているので、ご覧になった方もいらっしゃるでしょう。介護殺人の「加害者」たちが、自分がしたことを淡々と、あるいは泣きながら告白しています。

 介護が一度始まると、介護される人が自宅から介護施設に入所したり、亡くなったりしない限り、終わりはありません。特に認知症の介護では、認知症を発症した時の進行の度合い、健康状態、年齢などにより、終わるまでに何年かかるのか、なかなか予後の見当がつけられません。しかし、社会の高齢化に伴い、認知症に限らず、介護を受ける人の数は増え続けています。そういった状況の中、日本では、2000年に介護保険制度が導入されました。この制度により、在宅介護サービスの供給が増え、在宅介護をする介護者への負担が軽減されると予想されていました。しかし、介護疲れによる殺人や無理心中の件数は、当初の予想に反して、制度導入以前に比べ減るどころか、むしろ増えているということがわかってきました。

 介護殺人がからむ事件を見ると、殺人や心中に至るまでの経緯に、ふたつのパターンが見えてきます。まず、介護を受けている人から、激しい言葉や、ののしりの言葉を投げつけられることにより、長い介護で溜まりに溜まったストレスと、日頃から言われ続けた悪口への恨みが一気に爆発し、衝動的に殺人を犯してしまうパターン。もうひとつは、終わりの見えない介護の未来に絶望して、介護者が殺害や心中を図るパターン。こちらのパターンは、相手に殺していいかと尋ねてから殺害する「承諾殺人」と、殺してくれと懇願されて殺害する「嘱託殺人」が多く、計画的に殺人に至るケースです。多くの場合、心中を図りますが、介護者が死に切れず、殺人罪に問われることになります。いずれのパターンも、介護に専念するために介護離職をして経済的に苦しく、介護の全てをひとりで抱えている場合が多く見られます。一日のほとんどを介護に費やすため、自分の時間はなく、昼夜問わず介護が続きます。そんな状況から解放される、究極の方法としての「死」の選択。介護の経験がある人で、その一歩手前まで追いつめられたことは一度もない、と言い切れる人はいるのでしょうか。

 介護殺人または介護心中といわれる事件の裏には、自分が病気をして介護が続けられなくなるかもしれないという介護者の不安、長い間、在宅介護をひとりで担ってきたことからのストレス、家族や親戚、社会に迷惑をかけたくないという思いなどが綯い交ぜになっています。これらの感情に追いつめられ、精神的に不調をきたし、善悪を判断して行動する能力が著しく衰えた状態や、うつ病を引き起こすこともあります。既に正常な判断ができなくなっていれば、何かを引き金に、取り返しのつかない過ちを犯してしまうのは時間の問題です。

 取り返しのつかない結末を迎えないためには、介護者が「ひとり」にならず、家族や親戚、地域など、「外」に助けを求めることが大きな転機になります。例えば、住んでいる地域の自治体の福祉課に相談すれば、「介護奨励金」、「介護支援金」の支給や、介護用品にかかる費用の支援もあります。市役所・区役所、地域包括支援センター、社会福祉協議会でも、介護相談を受け付けています。その他に、「認知症の人と家族の会」や「認知症カフェ(通称オレンジカフェ)」が、介護に関わる人たちの悩みの相談やストレスの軽減に一役かっています。「認知症の人と家族の会」は、介護をしている家族のサポートグループの役割を持ち、「認知症カフェ」は、認知症の人やその家族に限らず、認知症について知りたい人が集う場となっています。いずれも、介護する家族が一人で介護を抱え込み、孤立してしまうことなく、同じ状況にある人や介護の手助けをしたいと思う人たちと支え合いながら、日々の介護に向き合えるような場所があるのです。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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