2020年1月9日 第2号

 年明けまで残すところ10日程となった12月下旬、トロント市が管理する長期滞在型老人ホームで火災が起きました。同施設の建物のロビー入り口付近で発生した火災は、幸い、建物全体に燃え広がることなく消し止められ、大事に至ることはありませんでした。

 この火災で、同施設に入所していた高齢の女性が足に第3度の火傷を負い、救急車で最寄りの病院に搬送されましたが、残念ながら、この火傷が原因で、翌日、入院先で亡くなりました。この女性の他に死傷者はなく、建物への被害もありませんでしたが、もし、火が建物全体に回り、391名の入所者全員が避難しなければならない規模の火災になっていたらと考えると、ゾッとします。

 このように、老人ホームなど、高齢者が多い施設で火災が起きた場合、入所者が安全にかつ速やかに避難することが最大目標になります。しかし、施設によって、ひとりでの移動が困難な人や、寝たきりの人もいるはずで、全員が簡単に避難できる状況ではありません。 また、夜間の火災の場合、避難以前に、就寝中の入所者を起こすことから始めなければならず、避難はさらに時間がかかります。 火災に備えて定期的に避難訓練を行っているはずですが、実際に火災が起きた場合、訓練通りにいかないことが考えられますし、火元や火災の規模により、避難がより困難になることも考えられます。

 火災時に、施設の職員には、「通報」、「消火」、「避難」を行うことが求められます。火災発生の初期には、熱や煙を蔓延させないための処置や、被害を最小限に抑える作業にあたらなくてはなりません。万が一の時に備え、避難にかかる時間を職員全員が把握し、目標とする時間内に確実に避難するためには、日頃からの訓練が必要です。訓練を重ねていても、実施の火災現場では、予想外のことが発生することが考えられるため、即座に的確な判断が求められます。

 夜間は入所者数に対する職員数が圧倒的に少ないため、夜間に火災が発生すると、惨事につながりやすくなります。 スプリンクラー、火災報知器、屋内の消火栓や消化器等の防災設備が施設内に設置されているはずですが、その使い方を知った上で適切に対応することができなければ、意味がありません。

 避難が必要になった場合、最も安全な避難先は屋外ですが、火元の場所によって、ロビーや玄関、レクリエーションに使うホールや多目的スペースに一時的に避難することも考えられます。敢えて屋外に避難する場合、冬など、屋内との気温差が大きく、急激な温度変化により、入所者がヒートショックを起こす可能性があるため、防寒に気を配らなくてはなりません。雨が降っている場合は、夏場でも、できるだけ雨に濡れないようにすることで、体温の低下を防ぎます。

 何よりも重要なのは、どのような手順で避難を誘導するかということです。自分で歩ける人、杖や車椅子で移動できる人、職員の介助が必要な人、寝たきりの人など、その人の状態に合わせて、避難を誘導する際に職員の役割分担を決めておくことも必要です。職員だけでは手が足りなければ、近隣の住民や、地域の防災協力隊などの応援を要請することも考えなければなりません。入所者が服用している薬剤や、使用している医療機器も、合わせて持ち出すことも忘れられません。

 避難の途中に、病人やけが人が出れば、救急車を要請する必要が出てきます。火災が精神的なトラウマになる可能性もあり、その後のフォローが必要な入所者もでてくるでしょう。避難後、すぐには施設に戻れない場合は、入所者が一時的に他の施設に移動する手はずを整えることも必要な作業です。 家族と連絡が取れていない入所者がいれば、速やかに連絡を取ること、消防や、事件性があれば警察の事情聴取に応じる必要もあるでしょう。

 備えあれば憂いなし。

 家族または自分自身が入所する施設を決める前に、できれば、災害時の対応や避難訓練の記録を確認するべきでしょう。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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