2019年10月24日 第43号

 ある雑誌に掲載されていた広告のキャッチコピーに、目が止まりました。活字にできないのが残念ですが、「こくばん」と「しょくぱん」のひらがなを上手に組み合わせて作ったフォントを使ったコピーが、とても面白いのです。「おばあちゃん、 しょくぱん(食パン)買ってきて」と頼むと、おばあちゃんの耳には、「おばあちゃん、こくばん(黒板)買ってきて」に聞こえることを表現しています。

 これは、携帯電話で使えるアプリケーションの広告で、聞き間違えやすい言葉を集め、検索できるようにした国語辞典の広告です。「聞こえ」の問題への対処方法のひとつとして、開発されたアプリケーションです。日常生活の中で、「食パン」ではなく「黒板」を買ってきてくれと頼まれることはまずありませんが、65歳以上の約半数の人に、「しょくぱん」と「こくばん」を聞き間違える傾向があるというのです。しかも、このように聞き間違えやすい言葉は、他に約150万組もあるらしいのです。

 2017年7月、国際アルツハイマー病協会において、ランセット国際委員会が、「認知症の症例のうちの約35%は、潜在的に予防可能な9つの危険因子に起因する」と発表しました。「難聴」は、「肥満」、「高血圧」、「糖尿病」などとともに、その9つの危険因子のひとつに挙げられ、「先天性難聴」や「一側性難聴」を除き、予防できる危険因子の中で、最も大きな危険因子であると指摘されました。近年の各国の研究により、「難聴」により、聴覚から入る音の刺激や、脳へ情報量が少ない状態が続くと、脳の萎縮や、神経細胞の弱まりが進み、それが認知症の発症に大きく影響することが明らかになってきました。

 「難聴」の他にも、耳が聞こえづらくなる原因があります。それが、「耳垢栓塞」です。これは、耳の穴の開口部から鼓膜までつながる「外耳道」に耳垢が過剰に溜まった状態をいいます。私たちの耳には「自浄作用」があり、「外耳道」に溜まった耳垢を押し出そうとしますが、自然な排出が妨げられると、外耳道に耳垢が溜まり、耳垢が栓のようになり詰まってしまいます。耳の小さい子ども、「外耳道」が狭い人、耳垢を排出する力が弱くなった高齢者、補聴器を使用している人に多く見られる症状です。

 「耳垢栓塞」により、耳垢が詰まって耳栓をしているような状態になっていると、「聞こえ」にも影響します。鼓膜が見えなくなるほど耳垢が溜まっている人は、そうでない人に比べ、平均7dBも聴力が低いという調査結果も出ているようです。7dBとは、正常な聴力があれば、誰もが大きさの違いを感じることができる音量です。また、アメリカの高齢者施設で行われた調査によると、6割以上の入居者に「耳垢栓塞」がありましたが、耳垢を取って「耳垢栓塞」をなくすことにより、聴力が回復したという報告もあります。それに伴い、聴力の回復だけでなく、認知機能も改善されたそうです。

 ただし、耳垢はむやみに耳かきや綿棒で取らないほうがいいとされています。2017年1月、米耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、医師向けに、何らかの症状があって受診した「耳垢塞栓」の患者に対する、適切な診療手順を示すための診療ガイドラインを作成し、公表しました。これと並行して、一般向けに、耳垢に関する基本的な情報と正しい管理方法などを解説する文書も作成し、無闇に耳に物を入れないように注意喚起しています。 同学会は、「塞栓を予防する方法はないが、耳垢が非常に多い人、耳垢塞栓を繰り返している人、補聴器などを使用している人は、6〜12カ月ごとに専門医を受診し、予防的な耳掃除をしてもらうとよいのではないか」としています。

 耳の「聞こえ」が 気になったら、一度、耳の検査を受けてみてください。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は今号をもちまして終了いたします。

しかし、日系コミュニティーに支援されて41 年余り続いてきた新報を存続させたいとの思いから、オンラインによるウェブサイトでの情報発信を継続することになりました。

SNS を含むオンラインは、弊紙で記者をしておりました三島直美と西川桂子が、責任者として引き継ぎ新体制で再出発する予定です。

今後も引き続き、ウェブサイトの閲覧をよろしくお願いいたします。