現在、トロント市セント・ジョセフ・ヘルス・センターで麻酔医として勤務しながら、日本のインディーズバンドをカナダ人に紹介すべく、コンサートツアーの全てを手がけているユニークな人物がいる。彼の名はDr.スティーブン・タナカ。バンクーバーで育った日系人であり、コンサートを主催する「ネクスト・ミュージック・フロム・トーキョー(NMFT)」の代表者だ。担当する仕事は、バンドの選択から会場の予約、ポスターデザイン、備品レンタル、司会、マネージャー、ドア係、ツアーガイド、運転手までと、広範囲に及ぶ。バンドを探す為に最多で年8回日本を訪れ、千枚を越すCDを集めたという。1回あたりのチケット収入5千ドルに対し、ツアーの支出は4万ドル。赤字分を含めた費用は、全てDr.タナカがカバーしている。
Dr.タナカは約6年前、日本滞在中にインディーズバンドの音楽に触れ、その想像力の豊かさや躍動感、観客とのコミュニケーションを大切にするステージに魅了された。日本でコンサートを企画する英国人ジャーナリストに触発され、また、自らがバンド活動をすることなくロックスターの生活が送れることから、コンサート企画を趣味として始めた。多忙きわまるDr.タナカに、お話を伺った。

 

—先生の企画されるイベントには、エレクトリックヒップホップやツイストなど、幅広いジャンルのバンドが参加していますが、どうやって見つけるのですか?
「カナダにいる間にインターネットから検索し、次回の旅行でどのバンドを見たいか調べます。また、今まで知らなかったバンドが、私の好きなバンドと一緒に出演していることをきっかけに見つけることもあります。あとは、お気に入りのライブハウスのスケジュールをチェックして、見たいと思うバンドが出演しているか確認します」

—日本のバンドの多くは、カナダでコンサートを行うことに関心がありますか?
「主にヨーロッパやアメリカでコンサートを行うことに関心があるようですが、カナダにも高い関心があるようです。海外なら、近くの台湾や韓国でもコンサートを開催したいと考えているようです」

—先生が企画するイベントの長さは通常どれくらいで、各バンドの持ち時間はどれくらいですか?また、1回あたりのイベントに参加するバンド数はいくつですか?
「普通は計4時間で、各バンドの持ち時間は約40分です。1回のコンサートに4〜5つのバンドが参加します」

—これまで何回イベントを企画し、総計いくつのバンドが参加しましたか?
「4回企画し、18組のバンドを連れて来ました」

—平均で年に何回コンサートを企画しているのですか?
「年1〜2回です。通常は、航空券が最も安く、さらに天気が良い5月か10月に開催しています」

—先生は日本の躍動感あふれるインディーズ音楽をカナダ人に紹介するために、また、お気に入りのバンドにツアーの機会を与えるために3年前にNMFTを立ち上げたそうですね。今、どのようにお考えですか?
「一生の思い出になるような素晴らしい経験をしております」

—NMFTは会社ですか、それとも非営利団体ですか?
「公式には非営利団体ではありませんが、儲からないビジネスです。私のお気に入りのバンドやミュージシャンを援助するために、個人的な趣味でやっております。また、何千ドルというお金を損失することを承知でやっております」

—次回のイベントを教えてください。
「10月16日から25日までのツアーを企画中ですが、バンドは未定です」

—夢や目標はありますか?
「私の好きなバンドを全部カナダに連れてきて、その過程で友人やファン、そして思い出を作ることです」

—最後に何かコメントをお願いします。
「日本のみならず世界には、自分が経験したことのないたくさんの素晴らしい音楽で溢れています。音楽は、文化の重要な一部分です。TVやラジオから流れている商業的な音楽にだけ耳を傾けて範囲を狭めるのは、残念なことです。この記事を読んでいただいた読者の皆さんが、さらに冒険的に音楽の世界を探索し、お気に入りのバンドを積極的に援助することをお勧めいたします」

—先生、どうもありがとうございました。

 

なお、Dr.タナカの主催するネクスト・ミュージック・フロム・トーキョーやコンサートツアーについての詳細は、
ウェブサイトwww.nextmusicfromtokyo.comで確認できる。

 

(取材 熊坂香)

 

2012年8月02日 31号掲載

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