健康の基本は食事だ。体に良いものを食べ、心身ともに健康であることで、人は良い仕事をすることができる。多忙なスケジュールをこなす在バンクーバー日本国総領事伊藤秀樹氏の毎日の食事を作り、その仕事を支えているのが、公邸料理人の工藤英良さんだ。「おいしい料理は、気持ちの入った料理」と話す工藤さんに、仕事に対する思いや将来の夢を聞いた。
総領事の食事〜塩分を抑えたヘルシーな和食
伊藤総領事の毎日の食事は、朝はシリアルと果物、昼は工藤さんの特製サンドイッチ、そして夜は和食。さまざまな会食に招待され、外食することも多い総領事のために、公邸での食事は塩分を極力抑えた、ヘルシーな和食にしている。日本でしか手に入らないものは空輸で取り寄せるが、基本的には食材は自分で買いに行く。総領事が一番好きな食べ物が刺身であることもあり、新鮮な海の幸を求めて、グランビルアイランドのパブリック・マーケットなどをよく訪れるそうだ。
天皇誕生日祝賀会〜450人分の天ぷらと寿司
JETプログラム歓送迎レセプションなど、総領事が主催する会食の調理と配膳業務全般も、工藤さんの仕事だ。また、12月6日にコースト・コールハーバー・ホテルで開催された天皇誕生日祝賀会では、招待客450人分の天ぷらと寿司を作るという大役を果たした。天ぷらは、かき揚げ800個と、エビ1000本。下ごしらえをしておき、祝賀会開始の約24時間前から揚げ始めた。仮眠一時間以外は、夜通し調理していたそうだ。公邸で全てを揚げ終え、会場のホテルに運び、そこで特殊なオーブンを使ってカリカリにするという。寿司にも苦労した。シャリがふわっとしていて、ネタが乾いていない理想のにぎり寿司を作るには、食べる直前に握る必要がある。そのため、450人分を一人で作ることはできない。そこで、手まり寿司とちらし寿司をメニューに加えた。特に手まり寿司への反応は良く、招待客からは「かわいくて、おいしい」というコメントをもらうことができたそうだ。総領事と共にバンクーバーに来てから1年以上たつが、この祝賀会が今までで一番印象に残る仕事になった。
人生には無駄な経験は一つもない〜料理以外の経験も貴重
日本では、日本料理の老舗「なだ万」など、大きなレストランで長い間経験を積んだ工藤さんだが、バンクーバーに来る前の一年間は、兵庫県芦屋市のウェディングレストランのシェフとして働いていた。この時初めて、業者との交渉や顧客の意向に沿ったメニュー作りなど、調理以外の仕事を経験し、その難しさに驚き、悩んだそうだ。そして、「この経験を活かせる事は中々ないだろう」と思っていた工藤さんだが、これが天皇誕生日祝賀会の準備を進める中で非常に役に立ったのだ。例えば、鮭10匹をおろす作業など、一人では出来ない仕事は業者にやってもらった。日本でのマネージメントの経験がなければ、カナダでそれをすることはできなかっただろう。日常業務としてやっている時には「つまらない」と思う仕事でも、あとで「ありがたかったな」と思う日が来る。だから、どんな仕事もがんばってやる。これが工藤さんの信条であり、自分より若い人に伝えたいメッセージでもある。
食べる人のことを考えながら料理する〜将来の夢は自分のレストラン
料理を上手に作るコツは、食べる人のことを考えること。「お母さんの料理が一番おいしいと言うけれど、それは本当のこと。気持ちが入っているから」と工藤さんは語る。不特定多数の来店客のために料理を作るのも大切な仕事だが、やはり、コミュニケーションをとって、その人の好きな味を想像しながら作るのが一番だ。工藤さんの将来の夢は、体にやさしく、純粋においしい料理を出すレストランを開業すること。その時、バンクーバーでの幅広い経験が活きることは間違いない。
(取材 船山祐衣)
2011年1月6日 第2号 掲載