北オカナガン地域の中心地サーモン・アーム市。教会を会場とした8月3日のジャズ・コンサートにバンクーバーからジャズ・バンドAltered Lawsが駆け付けていた。同地で演奏するのは2度目のドラマー、日系2世のバーニー・アライさんに話を聞いた。
エンジニア志望から音楽の道に
高校時代に学校でバンドを組み、ドラムを演奏していたバーニーさん。顧問の先生が大の音楽好きで、さまざまなレコードを学校に持参して貸し出してくれたことをきっかけに音楽鑑賞にいそしんだ。その時期にジャズの虜となり、UBCの物理学工学科時代は大学のビッグ・バンドに参加した。勉強と音楽の日々を過ごすうちに、「自分が一番やりたいのは音楽である」と気付いた。そこで、キャリア・チェンジのためにキャピラノ大学のジャズ科に進学し直す。卒業後はドラムの勉強に何度かニューヨークを訪れている。「カナダと違ってニューヨークのジャズ・シーンは緊迫感に溢れていて刺激を受けました」とバーニーさん。自らの心に導かれて音楽家としての道を歩むことになった。
さまざまな音楽活動
ドラム演奏者、レコーディング・アーティスト、そして、教育者として活躍しているバーニーさんは、ジャズ・ドラマーとしてだけではなく、日本古来の楽器にも深く興味を持った時期があった。1990年代にはバンクーバーを本拠地とする“うずめ太鼓”に参加して和太鼓を演奏していた。また、尺八は大師範でありBC州尺八協会の創始者でもあるアクビン・タケガワ・ラモス氏に師事していた。「子どもの頃に両親から日本語学校へ通わされたり、日本語を習得するようにと言われていましたが、あまり勉強しませんでした。あの時、日本語を習っていたら後年に日本文化を習得する際に役立っていたことでしょう」
日本文化の外側にいる自分
和太鼓や尺八を習い、日本文化に興味を持ったバーニーさん。実際に日本へ行って音楽活動を通していろいろな気持ちを味わった。「北米で参加している太鼓グループはパフォーマンスを目的としていました。でも、日本の和太鼓団はそれとは違っていました。武道などと同様に和太鼓を通しての肉体の鍛錬、そして音楽の修養を尊んでおり、上下関係など礼儀にもとても厳しくて違和感を感じました。北米で日本文化の流れを汲んだ和太鼓を演奏しても、本質的には自分は日本文化の外側にいるのだと実感しました」
音楽家としての経歴
バーニーさんはさまざまな有名音楽家と共に音楽活動をしてきている。共演してきたのは、Brad Turner Trio、 Hard Rubber Orchestra、Jennifer Scott Trio、 Ihor Kukurudza Trio、 Fred Stride Jazz Orchestra、 Sharon Minemoto Quintetそして、今回演奏した Altered Lawsなど。現在、彼が率いるトリオはThe Big Muchと命名されている。バーニーさんはドラマーとしてコンサートや世界各地の音楽祭はもちろん、CBC のJazzbeat や Hot Airなどにも出演している。Altered LawsがリリースしたCD、"Metaphora"は、2007年のジュノー賞の現代ジャズの部にノミネートされており、翌年にはOutstanding Jazz Recordingの部で西カナダ音楽賞を受賞している。上記の共演者のCDにもバーニーさんのドラムは収録されている。
音楽教育者として
バーニーさんはドラムセットのインストラクターとしてVancouver Community College School of Musicで10年以上も教鞭を執っており、卒業校のキャピラノ大学のジャズ科、また、Vancouver Creative Music Instituteでもドラムを教えている。また、UBC、ダグラス・カレッジ、ノース・ショアなどで夏季ジャズ講座を受け持っている。
「私はドラム演奏家としてジャズに携われることを幸せに感じています。二人の子どもに恵まれているので、これからも良い父親でありたいと思っています」言葉少なにそう語ったバーニーさんの演奏は、卓越した技術と情熱が感じられた。彼のソロ部分には会場から大きな歓声が湧き上がっていた。これからのバーニーさんの活躍が期待される。
プロフィール: Bernie Arai
東京出身の父と新潟県出身の母の間で生まれリッチモンドで育つ。現在はドラム演奏者、レコーディング・アーティスト、そして教育者として活躍している。
(取材 北風かんな)
2012年8月23日 34号掲載