日本で英語教育を受け、18歳以降に英語圏に渡航した日本人はどのように英語を上達させ、ネイティブに近い発音ができるのか。SFU言語学部の特別博士研究員として音声学的観点からの調査を行った斉藤一弥さんに“成人バイリンガル”について話を聞いた。

 

大人になってからの渡航者
現在北米に長期滞在をする日本人がどのように英語を話すのか、音声学的観点から調査をした斉藤さん。「成人バイリンガルに焦点を当てており、未だに多くの謎が残る“大人の第二言語習得メカニズム”を明らかにすることを目標としています。その結果としてこれまでモントリオール、オタワと様々な場所に滞在される日本人の皆さまのご協力を得てまいりました」と話す。
データ収集に用いられる英語テストはひとり15分とそう長くないが、より確かなデータ収集のためにより多くの人数を必要とした。モントリオールではワーホリ滞在1〜2年めという日本人を100人ほど調査した。

データ収集のための英語テスト
今回バンクーバーで行ったテストの対象は(1)18歳以降に北米(英語圏)に渡航し(2)7年以上の英語圏滞在暦があり(3)英語を頻繁に使う日本人。北米滞在歴が長くても英語中心の生活をしている人となると範囲が狭まったものの、約70人が英語テストに参加した。
データ収集は文章・写真を英語で読んだり説明したりする声を録音するというもの。例えば与えられた3つの単語を使ってイラストの状況を説明する。与えられた単語を読む。テープで聞いた文章の中の単語を違う文章の中で使い、センテンスを読み上げるなど。どれもタイムを測っているので、テストを受ける側にプレッシャーがかかるのも事実。

RとLの違い、母音の発音
このテストを受けた記者は「RとLの発音に気をつけているのがわかります」と言われた。RとLの発音が出来ていないためにCorrection(正解)をCollection(徴収)と誤解されるなどの経験から、ことのほかRとLには気をつけていたのだ。
ここで指摘されたのがほとんどの日本人同様、母音を意識せずに発音していることだ。日本語の母音は5つなのに比べ、英語には16の母音がある。例えばテストでは単語の音読みの中にさまざまな「い」の発音(Peat, Pet, Pit)が含まれていた。Pit[pIt]に含まれる[I]の発音はむしろ日本語の『い』と『え』の中間の発音とも言えるものだが、そのまま日本語の『い』と発音する人が大多数だという。

今後の日本での英語教育
では母音を徹底的に特訓するべきなのか、それとも英語社会であいまいな発音の母音でも通用しているのならあえてその必要はないのか。
斉藤さんが行ったこれまでのさまざまな調査に参加した日本人英語学習者人数は5年で500人以上。これらのデータをもとに「日本人の英語力が英語圏に滞在することでどのように、そしてどこまで成長するのか」について学術論文を作成し、年に数本のペースで国際学術紙で発表している。
日本では今、小学校から算数・理科・社会の授業を英語で教えてはどうかという案もあがっているという。斉藤さんの調査は、「実際に日本人が英語社会で生活・成功していく上で、どのような英語力を目指していくべきなのか」という問題に音声学の観点から取り組み、今後の日本での英語教育に大きな影響を与えそうだ。

(取材 ルイーズ阿久沢)

 

斎藤一弥

Kazuya Saito, PhD:米・シラキュース大学で修士課程終了(言語学)。モントリオールのマギル大学で博士号を取得(第2言語教育)後、カナダ政府の招聘で1年間の研究員となる。2011年8月からSFU特別博士研究員。4月から早稲田大学で専任講師として着任。

 

2012年4月19日 第16号 掲載

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