2017年3月2日 第9号

元気なく来店したお客様が、元気になって帰ってくださることが、なによりも仕事の励みになっていました。 (7号からの続き)

 

 1年半を過ぎると、ランチタイムは近隣の管理職者を中心としたビジネスマンに支えられ、多くのリピーターさんができていました。開店前の準備を上司はじめ料理人やホールスタッフで役割分担し、ムラなく均一にした結果、オーダーから3分で料理を提供できるほどスピードアップしていました。これが功をなして、リピーターさんも「ここのお店はすごく早くて、すごくうまいよ」と笑顔で仰ってくれるようになりました。   

 お客様の貴重な休憩時間を少しでも早く、少しでも長くとっていただきたいという気持ちが伝わっていたようです。  また、スタッフ間でも疑問点や問題点をそのまま放置しない、先延ばしにしない。これらの小さな積み重ねが結果に結びついたのだと思います。   

 すっかり顔なじみのリピーターさんが増えたことで、「今日のお客様の顔はいつもと同じ表情だ」とか、「今日は何となく元気がなさそう」などお客様に心寄せるコミュニケーションができ、自然な形で信頼関係が構築されていきました。スタッフには、「なにかやりにくいことや、わからないことはありませんか」と常に質問し、働きやすい環境を心掛けました。このような質問を繰り返すうちに、仕事はかなりしやすくなっていきました。   

 「仕事がとてもやりやすい」。さて、みなさんはこの意味をどのように受け止められますか?  大したことのないように感じるかもしれませんが、これはとても大事なことです。「いかにやりやすく」させるか、皆が必死になって考えているわけですからね。   

 ちなみに「やりやすい環境」とは、上司や仲間に対して思ったことが自由に言える、皆が聞く耳を持って聞いてくれるから安心する、精神的なプレッシャーがなくなる、だから新しいアイディア、知恵が浮かぶようになる。そして、もっとも大事なことは職場の仲間がフォローし合っていることだと思います。 

   しかし現実的に耳にするのが、「ここの職場はやりにくい」です。どのような職場でもオープン当初は必ず問題が起きるものです。どんな経験者が指揮をしても、時代や世代、環境が変われば必ず新たなやり方を生み出さなくてはなりません。これを大変と思うか、当然と思うか指揮者本人の器量によるのでしょう。人生の先輩は「人生は努力、また努力」と言います。さしずめ「お店の経営は改善、また改善」ということになるのでしょうね。 

 

  ●忘れ物 
 忘れ物をさせてしまうと、その「お客様」にも、その「物」にも気の毒だと思ってしまいます。そこで忘れ物をなくす、その知恵の一例です。

 忘れ物を、お客様より先にスタッフが気付いたことがあります。ある時偶然、そのスタッフがテーブルの上だけでなく、しゃがんでテーブルの下も覗いて確認をしているのを見かけました。見やすい所だけでなく「まさか」という所も確認していたわけです。 

 この行動はすばらしいと思い、その後は全員に、「お客様が立ったら、しゃがむ」をスローガンとして掲げました。その後の忘れ物は在籍中の5年でなんと2件です。これもお客様に無事にお届けすることができました。良い環境は私たちも、お客様も品物もみんなハッピーエンドにするのですね。 

(文 福本 衣李子)

 


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福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。

 

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