2017年2月2日 第5号
子供はいずれ手が離れる時期がくると自分に言い聞かせ、責任者はお断りさせていただきました。そしてランチのみで働かせていただいたのです。これが後々大正解になるとはゆめゆめ思ってもみませんでした。(3号からの続き)
一般的にグランドオープンは、既存店と違って全てが新しい道なき道を作らねばならないので、携わる人にはそれなりの大変さがあります。私が勤務した和食レストランもグランドオープンの頃は、スタッフ教育もままならぬままオープンしてしまいトラブルの連続でした。
料理の提供が遅いとお客様からクレームされるし、それを受けて上長からお叱りを受けるし、毎日が重苦しい中で仕事をしていました。その後問題点が改善されてもやはりスタッフ同士で心から笑顔になることはありませんでした。
そんな重苦しい雰囲気を救ってくれたのは休憩中にコーヒーを飲むことにしたからです。
ある日、一人が休憩中に「ねぇ〜、インスタントコーヒーでもいいから買ってきてみんなで飲みませんか?」と提案しました。こんなことを言うと驚かれると思いますが、上司から「ここにあるモノは全てオーナーのものですから社物には一切手をつけないように」といわれていて、お湯も社物の中に入るのでかなり士気はダウンしていました。それを打ち破っての発言。みんな急に元気になり「お湯ぐらいいいよね。叱られたらやめればいいよね」。即座に賛成と決まりました。
するとどうでしょう。職場の雰囲気も和やかになり、休憩中のおしゃべりで一気にコミュニケーションが高まりました。同様に仕事中も声を掛け合う環境が出来上がり、笑顔も増えていきました。たった一杯のコーヒーがお互いの気持ちを密着させてくれるなんて想像もつきませんでした。
それでも、完全に仕事がしやすくなったわけではありませんが、オープン当初と比べるとだいぶ温かみがある職場になっていました。
それでもひとつ大きな問題を抱えていました。それは調理場のレベルにサービスが追いついていなかったことです。特に困ったことは月替わりのメニュー説明です。これはオーダーを受けるときにどのような食材がどのように料理されているのか、また分量などをお客様に対して行う商品説明です。この説明をするかしないかで売り上げはもちろんのこと、スタッフとお客様との信頼関係を作るのにも一役かう場面です。それゆえ重要な問題点だったのです。
例えばサービスの責任者のみが料理長から説明を聞くのですが、その説明を聞いたままスタッフに伝えていました。するとサービススタッフの中には責任者より和食に詳しいスタッフもいて突っ込んだ質問をしてきます。
その疑問を解決するために、料理長に聞きに行きます。するとその回答に対してまた質問をされる、というような状態が続いていたようです。料理長も初めのうちは質問に答えるのですが、それが続くと「自分でも勉強して」と教えてもらえないこともありました。
今は違うかもしれませんが、日本料理の料理長は細やかな仕事をするため気難しい方が多かったようで、料理説明の窓口は責任者一人にしてほしいと言われていたのです。私はそのやりとりを横目で見ていました。幸い私はランチタイムが終わると仕事が終わりです。今でこそ、日本料理のテーブルマナー講師をしていますが、当時の私も日本料理のことは全く知りませんでした。もし仮に私が始めから責任者になっていたらかなり胃の痛い思いをしていたことでしょう。つくづく責任者にならなくて良かったと思いました。
そうこうしているうちに1年半が経っていました。末娘は中学生になり、私の勤務も夜までになりました。すでに私の前には4人の責任者が交代していました。そしていよいよ私の出番がやってきました。
(続く)
(文 福本 衣李子)
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福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。