2019年4月18日 第16号

・富士子さんは肝っ玉母ちゃん

 翌日は日田の温泉に案内をしてくれました。私は車の中で離婚がきっかけの富士子さんの辛い体験を聞くことになりました。こんなにも美人さんなのだから、苦労なんて縁遠い人だと勝手に思い込んでいました。

 いくら過去のこととは言え、慰めの言葉一つ言えず、ショックでただ黙って聞いているしかありませんでした。

 その後、なぜあんなに塾生をかわいがることができるのか疑問が残ったままだったので質問してみました。

 すると、4番目を生んだ2週間後に、ご主人から好きな人ができたから別れてほしいと離婚を迫られたそうです。この子が3歳になったら家を出るからそれまで待ってほしいと告げ、その後は経済的な理由もあり、結果お子さん4人とも手放さなければならなくなりました。

 それでも彼女はプラス思考です。「きっとうちの子もよそ様に大事にされているだろうから、生徒も我が子と同じ気持ちで育てたいと思っているのです」。

 さらに質問を続けてわかったことは、英語塾を開校した頃生徒さんは17人だけ。最低でも20人いなければ生活が成り立たないと不安があったものの、お父様から「人数に執着してはいけない。生徒はみんな家族のように大事にしたらいい」と前向きなアドバイスを受け、開講に踏みきったといいます。今ではなんと200人もの生徒さんを受け持つまでに繁栄しています。

 富士子さんは、教え子の中から「世界に通ずる一流の人を10人育てたい」という夢を持っています。

 「こんな小さな田舎町から世界に通用する人が出てくれたら日田市の誇りになります」。と郷土愛の深さにも脱帽です。「ちなみに一流とは学歴の高さを問うのですか」と聞いてみると、学歴は問題ではなく、思いやりのある人間性豊かな人を定義にしていました。

 私も富士子さんと同じように「日本全国に100人の日本料理のテーブルマナー講師を育てたい」という夢があります。これを聞いた富士子さん。「私は10人ですが、福本さんは100人も凄いですね〜」。「いえいえ。私は国内ですけどあなたは世界なので、私とは規模がぜんぜん違いますよ」。すると「ハァ? そうですかね?」と首をかしげるその仕草はなんともかわいらしく見えました。

 「実はね」とうれしそうに話始める富士子さん。塾を卒業した人の中に“世界に通じる人”がすでに2人、いたことがわかりました。

 一人目はチェロリストの宇野健太さん。二人目はデザイナーの森山愛子さん。そして富士子さんのお嬢様も有名企業のモデルさんをしていることも教えてくれました。

 英語塾を開講して20周年記念に“今注目を浴びている先生”というタイトルで取材を受けた時のこと。「人生の指針はなんですか」。その回答に「人に喜ばれることを考え、日々実践すること」。と実践に重きをおいていました。

 離婚後は子育てにご縁がなかったのではと思いきや、なんと自立に向けてとても計画的に子育てをしていたことがわかりました。いったんは手放さなければならなかったお子さんですが、そのうち2人とは一緒に暮らせていたようです。その子供達が5年生になると、「うちは母子家庭だから自立ができるように頑張りなさい」と、たくましい母親ぶりを発揮します。そしてそれぞれに「18才までにこのお金につけ足して100万円を貯めなさい」と言って40万を渡したそうです。そのお金はその子の出産、入園、入学のお祝い金やお年玉など使わずに貯めておいたものだそうです。さらに家業のまるつけや家の手伝いをさせて、アルバイト料にしていたといいます。こうして100万円を貯めさせました。

 さらに驚くことは、母子家庭は学資保険には入れないので、富士子さんが一人につき400万円ずつ貯めておいて、「大学の受験料や、試験会場に行くまでの交通費、さらに大学合格後の学費は全部この中から出しなさい」と学費支出の采配をさせたといいます。また卒業後の海外への渡航費に引っ越し費用などもそれを使うようにと指示します。決して溜め込ませずに、今度はどんどん使わせたというのです。学業中はお金が減ってくると本人の方が不安になるので貯金を減らさないようにアルバイトをしていたといいます。それにしても女手ひとつで800万円を稼いだ富士子ママにも驚かされっぱなしでした。まさに日本の肝っ玉母ちゃんです。

 2019年3月下旬。私は富士子さんの塾生、高校2年生に日本料理のテーブルマナーの指導をしてきました。 そこで「あなたがテーブルマナーを学ぶ目的はなんですか」という質問をしてみました。すると、

Aさん:きれいに食事ができるようになるため。かしこまった席でも気後れせずにいられるように。

Bさん:国内だけでなく、外国にいって食事をしたとき、きれいな食べ方を知っておきたいから。

Cさん:私が世界規模で活躍できる人材になるため。

Dさん:社会に出てからも礼儀作法ができるようになるため。

 どの生徒も志が高く世界を視野に入れた立派な回答でした。伸び行く子供たちに大きく翼を広げさせる人!“あっぱれ 富士子先生!”  あと8人と言わず、もっともっと“世界に通ずる人”を育てていただきたいと思います。

 

※長い間連載をさせていただきましたが、今回を持ちまして私の原稿は終了させていただきます。この原稿を書くにあたり、読者の方に少しでも楽しんでいただけるように、という想いで書きました。どれだけ楽しんでくださったか不安は残りますが、私自身は書くことで物の見方や、表現の仕方、加えて人としても多くの気づきを得ることができました。拙い文章ではございましたが、お読みいただきありがとうございました。

これからも、皆様の健康と益々のご活躍を心から祈念しています。 

 


 

著書紹介
2012年光文社より刊行。「帝国ホテルで学んだ無限リピート接客術」一瞬の出会いを永遠に変える魔法の7か条。アマゾンで接客部門2位となる。
お客様の心の声をいち早く聞き取り要望に応えリピーターになりたくさせる術を公開。小さな一手間がお客様の心を動かす。ビジネスだけでなくプライベートシーンでも役立つ本と好評。

福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。

 

 

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