2019年2月21日 第8号

・富士子さんの愛情溢れる教育の仕方

 私が初めて富士子さんと出会ったのは昨年の2月。福岡市で、ある会の新年会に参加したことがきっかけでした。

 とても美人で話し方や立ち居振る舞いにも品があり、ちょっと嫉妬してしまうほど全てにきれいな方でした。偶然私の隣に座り、お互いどのような仕事をしているのか自己紹介をし合いました。富士子さんは大分県日田市の自宅でお嬢さんと一緒に英語塾の先生をしていました。独身時代は国際線VIPのCAだったこともわかりました。

 日本料理のテーブルマナーにも興味があるということで、九州にいらしたときにはついでに足を延ばして私達にも教えてくれませんか。と嬉しいことを言ってくれました。

 翌月すぐにそのチャンスは訪れ、セミナーを行うことになりました。富士子さんがいつものように幼稚園児と中学1年生クラスに英語を教え、それを終えたら私の番です。出会ってまだひと月しかたっていないのにその日は泊めていただくことになり、段取りを整えました。

 夕方になり、幼稚園児のレッスンが始まりました。ところがレッスン中子供の声が全く聞こえてこないのです。4〜5歳くらいの子なら、「キャー」とか楽しそうにはしゃぐ大きな声がでてもよさそうなのに。不思議に思って教室の前で聞き耳を立てていました。やはり会話の声さえ聞こえてきません。授業終了後、静かだった理由を聞いてみると「一人ずつ順番に私の膝に乗せて教えているからかしら?」という返事が返ってきました。「なるほど」これでは騒ぐはずがないと深く納得してしまいました。そして富士子さんの指導の仕方には生徒を夢中にさせる何かがあると直感しました。

 幼稚園児のあと、中学1年生のレッスンが終わり私の番になりました。教室は二間続きで、それぞれ8人ずつが2グループに分かれて座っていました。部屋の構造上、お互いのグループの顔が見えません。そのため私は両方が見える中央に立って話を進めました。お箸の名前や上げ下げ、割りばしの割り方などの指導をし、いよいよセミナーも終盤になり、場を盛り上げようと豆粒のような小さいお菓子を箸で挟むゲームを始めました。「一人3個ずつ取ったら、次の人にバトンタッチですよ。早く終わった方が勝ちです」と説明をしてスタートです。一方のグループはいかにも子供らしく「うまくつかめな〜い」と楽しそうにゲームを進めています。

 ところがもう一方のグループはというと、トップバッターからまごついているではありませんか。それなのにその子ときたら焦りもせずにニコニコして何度もお菓子をつまみそこなっています。正直私は、中学生なのだから競争意識をもっとだして欲しいと思い「もっと急いだら」と思わず声に出しそうになったのをこらえました。そんな私の気持ちと相反して同じグループのメンバー達は「ゆっくりでえ〜からな〜」と言うではありませんか。

 私からは隣のチームは間もなく終わりそうになっているのが見えます。これはきっと相手チームが見えていないので焦らないのではと思いました。こうしてそのまま勝っていた方のチームはゲームを終えてしまいました。この間、富士子さんとお嬢さんは生徒のすることに一切口を出さずに笑顔で見守っていました。

 ゲームが終ってから聞いてみると、トップバッターの子は、ADHD(発達障害)だということがわかりました。ADHDという病気は、一度パニックになると「わぁ〜」とか突然奇声を発してしまい、落ち着きを取り戻すまで時間がかかるのだそうです。このような理由を知っていた生徒達は、急がせないようにしていたのです。私はこの中にいる人は全員健康だと当たり前のように思っていたのですが、それでも念のため健康状態を確認していなかったことに、ちょっぴり反省をしてしまいました。

 結局生徒たちは、始めから競争なんかしていなかったのです。それにしてもADHDを同級生に持つ生徒さんたちをどのように教育してきたのか気になりました。

 すると富士子さんは「『A君はある部分はみんなよりできないところがあるかもしれないけれど、ある部分では他の誰よりも天才なんですよ』って言っているんです。それをみんなはちゃんと理解してくれているから、あんなふうに行動にでるんですよ。これには私もほんとに助かっています」。

 私は心の中で、私だったら“誰よりも天才”なんていう表現は思い浮かばないんじゃないかしら? 一言で核心を突く表現力はうまいなぁと思いました。

 翌日は、日田の温泉に行くことになりました。その車の中で私は驚くような富士子さんの過去を聞くことになりました。

(次回に続く)

 


 

著書紹介
2012年光文社より刊行。「帝国ホテルで学んだ無限リピート接客術」一瞬の出会いを永遠に変える魔法の7か条。アマゾンで接客部門2位となる。
お客様の心の声をいち早く聞き取り要望に応えリピーターになりたくさせる術を公開。小さな一手間がお客様の心を動かす。ビジネスだけでなくプライベートシーンでも役立つ本と好評。

福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。

 

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