2018年6月21日 第25号
今月号のテーマは舞妓さんになる前の修業、仕込みさん時代についてです。
都をどりは、4時ごろに終わり、その後連れの舞妓さんが住む屋形に行きました。玄関を開けると「お姉さん、おかえりやす〜。お姉さん、おおきに〜」と言って5、6人が奥から駆け寄ってきました。見るとうぶな顔をした、それはそれはかわいらしい女の子たちです。この子たちは真っ先に、先輩舞妓さんを労っているのです。続けて私たちにも「おおきに〜みなさま、おいでやす〜」と歓迎の声をかけてくれました。はて? この子たちは、なんなのでしょう?? と疑問を持ちながらも屋形にあるバーに案内されました。
カウンターの中には先ほどの女の子たちがいて、水割りと軽いおつまみを出してくれました。「まぁ〜ずいぶんかわいらしいですけど、お歳をきいてもいいものでしょうか?」「へぇ うちは15歳どす」「うちは18歳どす」「どうして舞妓さんになりたいと思ったのですか」「うちは踊りをやりたいゆうたら、おばちゃんがこないな世界もあるから、みてみたら〜 いわはってここにきました」と満面の笑みで話してくれました。
全員が普段着の着物を上手に着ています。中には隣席の男性客の話し相手をする子も。話し相手とは言ってもまだまだ子供。途中で会話に行き詰まる場面も度々。行き詰まって困っても、笑顔だけは絶やさない。よく仕込まれていると思いました。
聞けばこのお嬢さんたちは、舞妓さんになる前の段階で、“仕込みさん”と呼ぶのだそうです。
半年後には地毛で(芸妓さんはカツラを被る)きれいに髪を結いあげ、屋形のお母さんが選んでくれた着物を着て(自分の好みで着物は選べない)あこがれの舞妓さんになるわけです。デビューまでの半年〜1年間は歌や踊り、言葉遣い、所作を習い、なおかつ屋形のお母さんから身の周りのことを学ぶのだそうです。
この中に、私と同じ青森県出身の子がいました。青森といえば訛りが強いのに、その気配が全く感じられません。「言葉遣いやアクセントを直すのは大変だったでしょう…」「へぇ〜」と頷きながらも、3週間前に来たとは思えないほど、すっかり京都弁になっていました。
言葉遣いで特に注意されるのは、語尾を上げるのではなく、下げるのだそうです。「上に上げた言い方は、“お江戸言葉”と言って必ず注意されます」。
東京の言葉はそんなにきつく聞こえるのかしらと思い、私もちょっと真似をして「そうどす〜」と上げたり下げたりしてみました。言われてみればそうかもしれません…。これから私も優しく聞こえるように語尾を下げようと思いました。(笑)
わずか15歳でも笑顔で接客をし、お客様を退屈させないように終始、会話を絶やさないプロ意識には驚かされました。
私は、大人でさえ笑顔で接客できない人たちを思い浮かべながら「人の成長は誰に出会うか、どう教えられるかで本人の成長意欲が高まるのですね」、と感慨深く知人に話すと「福本さんも、あの子たちを見て何かを学ばせてもらったのですね」と言ってくれました。
「それにしてもいくら舞妓さんになりたいからと言っていきなり、修業をさせられるのでは少し乱暴のように思うのですが…?」「本当に舞妓になりたいのか、それを試すために、まず夏休みや冬休みを利用して、体験に来てますよ」「それから、京都は一見さんお断りって聞きますが、それはなぜですか」「それには理由が二つあって、一つ目は初めてのお客様だと、どのようにもてなしをさせていただいたらいいのか、よくわからないから。二つ目は、支払いにかかわる問題です。基本的にお茶屋さんはツケなので、信頼関係がないと支払ってくれるかが不安だからです」。このような理由から一見さんお断り、なのだそうです。
「舞妓さんになったら、その後の芸妓さんにはどれくらいでなれるのですか?」「舞妓を4、5年経験したら、芸妓になれます。一概には言えませんが、幼い顔立ちの方は、舞妓でいる方が長い方もいるのだとか。それは屋形のお母さんが芸、舞妓の人数全体のバランスをみて判断するのだそうです。屋形には最高で6年間しかいられないので、その間に自立に向けてご贔屓さんを探すそうです…。
「ご贔屓さんって?」「まぁ〜簡単に言えばお妾さんらしいです」。一昔前の話によると、ご贔屓さん(旦那さん)が舞妓さんにかける費用は2千万〜5千万円。今まで屋形のお母さんがしてくれていた生活の面倒、着物の購入、すべてをなさるようです。しかし今の時代は、そんなお金をポンと出せる殿方は、なかなか見つからないのが現状のようです。
もちろん立派な職業婦人とはいえ、芸妓をやめて結婚なさる人もいます。いい例が『祇園の教訓「昇る人、昇り切らずに終わる人」』の著者の岩崎峰子さんは結婚なさいました。芸妓を職業婦人として、とても誇りをもっていると何かに書かれていました。自分で着物を買い、生活が安定するくらい稼げる人のみが生き残れる、厳しい世界なのです。
以上のような体験から、前回の踊りの名前や今回の仕込みさんから舞妓さんになるまでのことがわかり、いい勉強になりました。おそらく日本人でさえも、これらのことを理解している方は、少ないのではないでしょうか?
もし、舞妓さんと一緒に食事や踊りを楽しみたい方は、下記のメールアドレスに問い合せをしてみてください。(バンクーバー新報の福本の記事を読みました)と言っていただけるとスムーズです。
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お客様の心の声をいち早く聞き取り要望に応えリピーターになりたくさせる術を公開。小さな一手間がお客様の心を動かす。ビジネスだけでなくプライベートシーンでも役立つ本と好評。
福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。