2018年8月16日 第33号

 皆さんは、石そのものに不思議な力があると思いますか?

 知人が素敵なネックレスをしていました。それは、パワーストーンの一種でシトリンという名の石だそうです。初めて聞く名前です。さらに質問をすると、パワーストーンには、たくさんの種類があり、それぞれに特性が異なるというのです。自分が叶えたい内容で、身につける石を鑑定士の方が選んでくれるといいます。『本当にそうかしら?』と半ば興味本位で私も、鑑定をしてもらうことになりました。

「どんなことでお困りですか」

 私には子供の頃からとてもかわいがってくれている叔母がいます。私にとって良かれと思ってアドバイスをしてくれるのですが、私の意見や状況を聞く前に、自分の経験がさも正しいという言い方をします。彼女はいきなり結論を言うので、私はイライラするのです。

事例1

 イノシシの親子がほほ笑んでいる柄の帯を見たときのことです。「まぁ、こんなもの買ったの!」と一言。私に見立てを頼めばもっといいものを選んであげたのに、と言わんばかりでした。これは、いつになく落ち込んでいたイノシシ年生まれの私が、その笑顔に魅かれて買ったものでした。

事例2

 大勢で食事をする時など、自分が作ったものだから、絶対においしいはず、「味はどう?どう?おいしいでしょ!」と、相手に「おいしい」と言わせるような強制的な言い方をするのです。嗜好はさまざまですし、まだ『どう?おいしい?』と少し謙虚に言ってくれたら、こちらも笑顔で返事ができるのです。このように何かにつけて、自己主張的な言動を度々するのです。

 もちろん、こういう人だとわかっているのだから、それなりに受け止めて聞き流せばいいことなのです。しかし、それが多すぎて素直に聞きたくても受け入れられないことが悩みなのです。

 「このような時に、イライラしないで聞き流せるようになんとか改善したいです」と話しました。そういう悩みには、心に癒しや優しさを与える“ローズクオーツ”のネックレスがいい、ということになりました。出来上がったのは、バンクーバーに発つ前日。箱を開けてみると、とても気に入りました。価格もデザインも大満足です。

 バンクーバー初日からずっと昼夜つけっぱなしでした。こうして5カ月が過ぎた頃でしょうか。窓から見える遠くの雄大な山々に癒され、気持ちをゆったりと持つことができました。せかせかとしたこれまでの日常とは全く違う日々を経験できたのです。それも手伝ってか、あるいは簡単に自己暗示にかかっていたのか、叔母への感情がなんとなく和らいでいる自分に気が付きました。ちょっとは、パワーストーンのお陰かな?くらいに思っていました。

 そんなある日、机で仕事をしていると、パラパラっと何かが首から落ちてきました。そうです。糸が切れてしまったのです。ここ、バンクーバーにはパワーストーンのお店がたくさんあるのだから、どこかで直してもらえばいい、と軽い気持ちでお店のドアを開けること5軒。どこのお店でも「この編み方は特殊だから直すことができません」と断られてしまいました。それほど編み方が難しかったようです。

 その後、日本に一時帰国した時に修理したのも束の間、留め金だと思ってはずしたのに、なんと今度は自分の手で糸を切ってしまいました。鑑定士の方に事情を電話で説明し、再度、修理をお願いしたのですが、「もうそのネックレスは役目が終わったので直さない方がいい」と説明されました。しかし、とても気に入っていたデザインだったので、あきらめきれないと無理やり頼み込んで直していただくことになりました。それからすぐに送ることができず、持ち歩いていました。それから1カ月後の知人宅でのことです。

 知人は、キラキラと光るとてもきれいな水晶のパワーストーンをつけていました。水晶は「あらゆる邪気を払う最強の石」という意味をもつのだそうです。なんだか無性に欲しくなりました。

 そして送りそびれて、持ち歩いていたあのローズクオーツをビニール袋から出した瞬間、四方八方に飛び散ってしまったのです。慌ててかき集めるも、あっという間にテーブルから落ちてしまいました。しかも、拾おうとしてテーブルの下を探しても一つも見つかりません。人の家なので探し足りない気もするのですが、私から逃げているような気もしたのです。

 更に驚くことに、ネックレスを見ると、中央のところがもう1カ所切れているではありませんか。切れたのは1箇所だったのにビニール袋の中で、2カ所になっていたのです。こんなことってあるのでしょうか!! 切れたときにすぐにビニール袋に入れたので、中で自然に切れたとしか思えないのです。これにはさすがの私も驚いて本当に、もうつけてはいけないのだ、と納得しました。

 鑑定士の方に一連の流れを告げると「パワーストーンは、そういうことをするんですよ」と平然として話していました。「どこかきれいな川にお礼を言って流してあげてください」と言われました。とっさに近々、四万十川に観光に行くので、そこで川下りの時に流そうと決めました。私は誰にも拾われないように川の中流で「ありがとうね」と静かに落としました。

 今回このように不思議な体験をしたお陰で、改めて振り返ってみました。すると、叔母自身が老いてしまって、若い頃とは違ってきている。また、私自身も叔母への想いを子供の頃の感情を今もそのまま持ち続けていた、という大事なことに気が付くことができました。パワーストーンのお陰で今では、叔母への苛立ちはほとんどなくなっています。

 さて、皆さんはこのような経験をしたことがありますか。

 


 

著書紹介
2012年光文社より刊行。「帝国ホテルで学んだ無限リピート接客術」一瞬の出会いを永遠に変える魔法の7か条。アマゾンで接客部門2位となる。
お客様の心の声をいち早く聞き取り要望に応えリピーターになりたくさせる術を公開。小さな一手間がお客様の心を動かす。ビジネスだけでなくプライベートシーンでも役立つ本と好評。

福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。