2016年12月15日 第51号
日本料理食卓作法認定講師を取得して間もない頃、受講を希望される方から八つ当たりのような電話がありました。「恥をかいたのでテーブルマナーを教えてくれ」というのです。声を荒げ、私から「教えます」という了解を得るまで電話を切ろうとしない彼。とても興味深いエピソードなので今回はそれをご紹介します。
マンツーマン指導を受けようとする志の高さが垣間見える瞬間でした。今度は私の方が彼に興味を持ってしまいました。
(前回からの続き)
帰り際、彼は講義の感想を言ってくれました。「先生のような気取らない方が多くの人から支持されるようになってくれるといいな〜と思いながらレッスンを聞いていました。正直、恐い先生だったらどうしよう、と思っていたんですよ」
そんな気持ちでレッスンを受けてくださっていたなんて、とても感動しました。帰り際にはランチボックスをお土産に手配してくださり、その気遣いもまたうれしく思いました。
その後も「○○はどうするのですか」とわからないことをそのままにせず、質問をしてくること度々でした。 またある時は驚くことに「家族がビルを持っています。店子に厨房機器のメーカーがあるので、もし先生が何かほしいものがあれば言ってください。少しは力になれるかもしれません」とおっしゃるではありませんか。他にも私の原稿が掲載されると一生懸命に読んでくださり、年賀状のやりとりも数年続きました。
食事場面での恥ずかしい思いは、いつまでも記憶として残るものです。それは食事の仕方で人と成りがわかってしまうからなのかもしれません。たとえ、社会的地位のある方でも、自分自身の品位を傷つけてしまうことがあるのです。それほど食事の仕方というのは大切なのです。
誰にとっても恥をかくことは辛いことですが、恥をかくことで成長することは多いものです。「恥を成長の糧」とし、苦手なことと向き合う彼はとても立派な青年だと思いました。
ここで、「衣食足りて礼節を知る」ということわざを思い出すのですが、この意味は、「生活が楽になった時、初めて他者に対して礼儀を向ける心の余裕ができてくる」ということです。最初の電話の印象はよくありませんでしたが、彼は「衣食足りて、礼節を…」と頭では知っていたにもかかわらず、他人と食事をする機会に恵まれなかったのではないかと推測します。
後々わかったことですが、驚いたことに、彼は社会的地位のある方のご子息でした。
数年後、「先生から教わったお箸の所作は今もきちんと実行していますからね」と、電話の声はとても爽やかでした。
(文 福本 衣李子)
著書紹介
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お客様の心の声をいち早く聞き取り要望に応えリピーターになりたくさせる術を公開。小さな一手間がお客様の心を動かす。ビジネスだけでなくプライベートシーンでも役立つ本と好評。〜$18にて販売中〜
セミナー紹介
2016年9月よりお箸の持ち方、「5つの箸使い、割り箸の4つの所作を教えます」のセミナーを開始。毎週木曜1時間。1時〜と5時半〜(全4回)。
1回$30(割引:4回分一括前納は$80)それ以外の時間でも可。連続での受講も可。修了証を差し上げます。 申し込み方法はThis email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.まで。
福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。