2017年2月16日 第7号

そうこうしているうちに1年半が経っていました。末娘は中学生になり、私の勤務も夜までになりました。すでに私の前には4人の責任者が交代していました。そしていよいよ私の出番がやってきました。(5号からの続き)  

 

 責任者を命ぜられたものの、ディナータイムはランチタイムと料理内容もサービスの仕方も異なり、私の知識は情けないほど足りませんでした。今でこそテーブルマナー講師をしていますが、当時の私は、日本料理について全くわかりませんでした。見よう見まねでこなすことができるのですが、お客様から質問されてもご満足いただけるような知識は持ち合わせていませんでした。ましてや私より日本料理に詳しいスタッフがいる中で、うまくまとめていく自信もありませんでした。  

 そこで上長に「どこかの日本料理店で研修をさせてください」と進言してみました。すると快く研修先を見つけてくださり、そこで和食料理の基礎とサービスの基本などの研修を積み重ねることとなりました。研修先は誰もが知る老舗です。 

 それこそ、開店前の掃除から、閉店にいたる1日の流れをつぶさに把握します。そこで疑問点や、どのようにしてスタッフに料理説明や味を教えているのか、60才以上の年配のスタッフをどのようにミスなく指導しているのかなど、詳しく教えていただきました。これが大変勉強になり、すぐに職場で生かすことができました。 

   店に戻ってからは改善策について、料理長と研修内容をもとに話し合うことが自然にできるようになりました。 

 まず問題だったメニュー説明の改善に取り組みました。今までの責任者一人で聞くのをやめ、スタッフ全員が共通認識を持つために、新たな時間を設け全員で聞くことにしました。 

 料理長が全員に説明をする→サービスの仕方や説明不足があれば、その場で質問→回答→さらに質問、というように次々に疑問点をクリアにしていきました。結果、多くの疑問が瞬時に解決し、合理的かつ機能的にお店の運営をすることができるようになっていきました。   

 次の課題はお客様に味を伝えることです。それには試食を提案し、実行となりました。これはお客様からよく質問を受けますので、どうしても取り入れたい項目でした。この質問にきちんと答えられるスタッフがいれば、信頼を得るお店になります。また、「スタッフ全員分の試食を用意するなんてできません」と試食を元からしないとか、廃止してしまう会社もあるようですが、それは実にもったいない話です。 

 私の職場にはホールスタッフは8人いましたが、試食品は1つで十分です。   

 さらに、大事なことは盛り付けを見て、全体の分量を知ること。味を知ることです。

   最後にスタッフ全員でお客様にわかりやすい説明のキーワードを共有し合い、万全なものにします。 

 試食をする時間帯はオープン直後の30分間で終えます。 

 3ヶ月も過ぎる頃には料理の知識も増え、メニュー研修の時間もだんだん短くなっていきました。そしてスタッフとお客様との会話や笑顔がどんどん増えていき、職場はとても温かい雰囲気になっていきました。元気なく来店したお客様が、元気になって帰ってくださることが、なによりも仕事の励みになっていました。

(続く)

(文 福本 衣李子)

 


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福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。

 

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