2017年7月20日 第29号
先日あるところで100ミリリットルほど入る携帯用のガラス瓶を購入しました。本当は小さめの水筒がほしかったのですが、値段が高いのでそれに代用するものを探していました。そして見つかったのがこのガラス瓶です。
でも“もしハンドバックに入れた時、お水がこぼれてしまわないか”心配だったので、店員さんに次のようなお願いをしてみました。
この時私の頭の中には20年前くらいに、あるところで急須を買おうとしたとき、何気なく「口元から垂れないですかね」と質問したことがあります。すると、店員さんが「それじゃ、やってみましょう」と新しい商品にお水を入れて試してくれたことがありました。私はお客様のために「こんなにまでしてくれるのか」と感激したことを思い出していました。
「どちらかを買いたいのですが、念のためお水を入れて漏れないことを確認してもらうことはできますか?」
すると、その店員さんは無表情のまま責任者の方に聞きに行きました。
責任者の方は30代の若い方でした。責任者の方もなぜか無表情だったのですが、試してくれました。お水はこぼれることなく満足して購入することができました。その後、責任者の方から「どちらか買う方が決まったら、買わない方をレジに渡してくれませんか?あとでお水を拭きますので…」。なるほど無表情だった原因は、購入前の商品をたとえお水でも使用してよいのか、その判断に困っていたのでしょう。
さて、このshopはどこだと思いますか?一見一流デパートのような対応ですが、なんと私の地元の100円ショップです。ダメ元を覚悟でお願いしてみましたが、購入時の対応が良かったのと、軽くて形もかわいいので、使うたびにうれしい気持ちにさせてくれます。
私たち接客員は、日頃お客様と接していると、瞬間の判断を求められることが度々あります。以下は私の経験です。
それはお花見の時期でとても寒い日でした。外から来て体がすっかり冷え切ったようすで、席待ちをしているお客様たちは背中を丸めています。お席に案内したくてもなかなか席は空きません。
入り口とホールを行き来しながら、どうしてさしあげるのが一番いいのか悩んでいましたが、なかなかいいアイデアが浮かびません。両手をさすりながら寒さを我慢している様子を見てふと、「温かいお茶を飲んだら体が温まるのでは?」と思い立ちました。
しかし過去ウェイティングの場で、お茶を出したことがありませんでした。もし私がお茶を出して、誰かに「なんであの場でお茶を出すの?」と言われたらどうしようと不安になりました。しばらく様子を見ていましたが、やはり寒そうです。
私は覚悟を決めお茶を出すことにしました。「いいや。叱られたら、その時はその時」。すると、お客様は満面の笑みで、「ありがとう」と、うれしそうにお茶を飲んでくださいました。
「よかった〜」。ウェイティングの場の空気が急に柔らかくなりました。
これで誰かに叱られたとしても、私はお客様を笑顔にして差し上げることができたことに一人で満足していればいいと思いました。
もちろん実際にはそんなことを言う人は誰もおらず、『お茶を出してあげて良かったですね』というスタッフもいました。
もちろん席を待ちきれずお帰りになってしまうお客様も一人もいませんでした。
前例のない判断には誰でも躊躇するものです。でもときにお客様のために、規則や慣例を超えた判断が、再訪をうながすことになるのかもしれませんね。
福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。