2017年9月21日 第38号

 ひとつ夢が叶いました。三越カルチャーサロンで、日本料理のテーブルマナーを教え始めた頃から、デパートのイベントとして子供に「お箸の所作」を教えたいと思っていたその夢が実現したのです。開催できた理由は私がバンクーバー滞在中に、日本語学校でセミナーをさせていただいたからです。この機会がなければ、今もってできなかったかもしれません。バンクーバーでは、授業の一環として行いました。

 そこで想定外なことが起こりました。なんとカナダ人の親御さんも参観したいという希望が寄せられました。当然OKです。そこで一番私が学んだことは、「食事作法は子供だけでなく親御さんも一緒に参加しなければ身につくのは難しい!」ということです。それならばいっそ親子で学んでもらったら、子供が忘れてしまっても親がフォローできると思い、「親子で学ぶお箸の持ち方とその心」というタイトルで開催しました。ということで、バンクーバー日本語学校の経験が日本でのセミナーに大いに役立ったというわけです。ですので、とてもバンクーバーの皆さんには感謝しています。

 さてセミナー当日。参加者は1年生、3年生、4年生。まず、お箸の名前、お箸の割り方、お箸の上げ下げを教え、そしてスプーンの使い方をチェックし、続いてお箸を持つ位置や持ち方を指導しました。まぁ〜ここまではいつも通り大人向けのセミナーと特に変わったことはしていません。今回私が特に気を配ったことは、お箸が持てない、という苦手意識を持ったお子さんたちが集まるということ。もしかしたら嫌々ながら来た子もいるかもしれないと思い、楽しいと思わせる雰囲気作りに重点を置きました。そして私自身がお子さんと壁をなくし、たった今会ったばかりでも10年の知己のように、お子さんに寄り添うようにしました。お子さんたちが喜ぶようにポップコーンやゼリーを教材に使って楽しく、そしてちょっとでもできたら褒めながら、にこやかな表情で言うことを心掛けました。その間、保護者もにこやかにわが子を見つめていました。

 実は開催10分前に、そわそわしているお子さんに『少し落ち着きなさい!』と怒った顔で注意をしていた親御さんがいました。私は、差し出がましいとは思いましたが、「子供というのは、落ち着かないものじゃないですか? なので始まる1分前には『静かにしなさいよ』と予告してあげたほうがいいように思いますが…」とアドバイスをしました。

 帰国後、表情の大切さについて2つの話を聞きました。一つ目。アメリカの男性は、子供の頃に「嫌なことがあっても顔に出さないように」と躾けられるのだそうです。日本ではこのように教わることがないのでとても驚きました。二つ目。『親の表情が子供のやる気を損なっているというのを知っていますか』と言った方がいます。

 例えば、テストの成績が悪いとき、運動会のかけっこで入賞できなかったとき、野球の選手に選ばれなかったときなど、口では「また頑張ればいいのよ」と励ましておきながら、顔ではあからさまにがっかりした顔をしている…。すると子供はどんなに励まされても、たいして期待されていないことを見抜き、やる気を損なってしまう。だから次はもっと頑張ろう!という意欲が湧かなくなるのだ。だから、お母さんは子供の前でガッカリした表情はしないでください、という教えでした。

 当然私も思い当たる節だらけ…。長女が5歳の時、ピアノを習ったばかりでまだよく指が動かないのに「どうして言われたとおりできないの!! こうやってこうすればできるじゃない」…うまくなってほしくて言ったものの、かなり怖い顔をしていたと思います。そんなことを思い出し、かわいそうなことをしたなぁ〜、と反省です。この歳になって、表情が相手を傷つけていたことに改めて気付かされました。

 そこでふと、もしかしたらお箸を持てない理由のひとつは、実は子供ではなく親の表情にも一因があったのではないかと思うようになりました。確かに大人の人でお箸を持てない理由の共通点は、親が厳しすぎてトラウマになってしまったという人がほとんどです。厳しくても、もしにこやかな顔で教えてくれていたらどうだったのでしょう。

 これは子供に関わらず、大人同士でも言えることだと思いました。そう考えると、何もお箸の持ち方だけに関わらず、家でも学校でも会社でも、表情ひとつでマイナスにもなれば、勇気を与えることもできる、ということになります。今さらではあるもの、顔の表情が与える影響はいかに大切かを肝に銘じました。

 


 

著書紹介
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お客様の心の声をいち早く聞き取り要望に応えリピーターになりたくさせる術を公開。小さな一手間がお客様の心を動かす。ビジネスだけでなくプライベートシーンでも役立つ本と好評。

福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。