2016年11月17日 第47号

 高校時代に学校きっての秀才というべき友がいた。小柄で真面目な性格であった彼は、僕のことを「ソウイッチャン」と古い時代に村のおじさんを呼ぶように少し笑いながら呼ぶのである。多くは政治とか、読んだ本のことが話題になった。

 英語、数学の成績はまったくだめで、学年でも最下位の成績でいる僕に対して、友の彼は成績優秀で、その組み合わせはまことに奇妙と言わざるをえない。

 それから数十年過ぎた最近、彼がよく読んでいた大江健三郎の本がすこし理解できるところまできた思いがするので、秀才の頭脳はずいぶん時代の先を走っていたように思える。

 その程度の頭脳の小生が、人生のゴールデンエイジ(年金世代)になり、エッセイを書きつづっているのも不思議な思いがするのである。

 余談であるが、最近、息子が急性盲腸炎になり、バンクーバー総合病院に入院した。ちょうど連休で僕たちはゆっくりしていたのであるが、息子はその前の日から腹部が痛くて夕食を食べない。珍しいことである。以前、僕自身が胃潰瘍になり入院したことがあるので、彼もまた同じ家系だから、僕と同じ胃潰瘍だと思い、胃潰瘍の薬を飲ますが一向によくならない。これは何か違う病気だと気づき、翌朝早くに緊急病院へつれて行くと盲腸炎だという。

 手遅れで、盲腸が破れて、膿がお腹に広がっていたので大変であった。手術後は、お腹がはれたためか、食事を食べればすぐ戻す。見ているぼくの方がつらい気持ちになる。しかし、入院して二日目ぐらいから、少しずつ食べられるようになり一安心であったが、お腹の膿を出すために腹の横に膿を出すためのチューブと袋をぶら下げて薬の点滴を受けているので、あまり自由に動けない。一人でいるのも不安らしく、毎日夕食後に僕が病院に顔を出して少しばかり話をすると、安心をするのか、薬のせいか、すぐ寝てしまう。僕は、持参した大江健三郎の本を読み始める。

 タイトルは『日本の「私」からの手紙』からの「日本人は年とともに改良されたか」である。

 「天皇が人間の声で話した日から、すでに数々の出来事があった。私が最も緊張したのは、谷間の家々にある古い武器をムシロに包んで森に運び樹木の間に埋めることが一斉に行われた夜。私の家からも、この他の谷間の農民もそれに加わった百年前の二度の百姓一揆で、最初はそれを鎮圧する村の責任者として、次には叛乱する側の指導者として、家の男達が使った刀が、母親によって森へ運び上げられた。この谷間ぐるみの行為が、私の新しい夢想に根拠をあたえた。天皇は人間の声で戦争の終わったことを告げたが、あれは本当のことではなかった。もともと天皇が人間の声で語るだろうか?」

 「現実には、私の谷間の村のみならず、この国のいかなる場所でも、日本の市民が武装して占領軍にゲリラ活動を行うことはなかった。この国の保守派のつねにかわらぬ談論は、マッカーサー案としての新憲法が日本に押しつけられて、日本人はやむなく受身で受けとめた、というものだ。しかし戦争犯罪者としての逮捕をまぬがれた指導者には、新しい国家に有効なかれら独自の憲法案をマッカーサー案に効果的に対立させ提出する力はなかったのである。GHQに指導された民主主義の憲法は、日本側のいかなる草案よりも、確実に、日本の自己改造の方向を示していた。日本人はそれを積極的に受けとめて、戦後の数年であれ、不戦を誓った民主主義国家としての未来に、再生の夢をたくしたのである。」

 「国民学校の校庭で、まだ頭を短く刈ったままの、この間までもっとも軍国主義的だった教頭が生徒の私らに羞恥心の念をおぼえさせるほどの上機嫌で、英語の講習をしていた。占領軍の兵士が、ジープと呼ばれる車に乗って、この谷間にまでさかのぼってやってくる。明日からか、明後日か、遅くともこの週のうちには。彼らを歓迎するための挨拶の言葉を覚えておこう。さあ、そろって、ハローと叫ぶように。」

 この夏、平成の天皇陛下がテレビで自ら生前の御退位の希望を語られたことは、神ではなく、ヒューマニズムのあらわれを示されたのだろうか。 

 


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