2018年9月27日 第39号

 今年の夏は世界的に異常気象が続き、特に日本は猛暑というよりは酷暑。バンクーバーも例年に比べるとかなり暑く、そこで暑気払いと称して、何回となく友人や生徒たちと飲み会を行なった。

 そんな席で、日本語上級者のK君から「Bank」の語源を聞かれた。彼は現在バンクーバーの銀行に勤めており、かなり前、バスの「B-Line」の語源について、ちょっといじめた生徒である。

 英語の「Bank」の語源など考えたこともなく、逆に語源などあるの、と聞いたところ、彼からこんな説明を受けた。Bankの語源は中世、イタリアの両替商人がお金を数えるための机を『Banco』と呼んでおり、それが語源になったとのこと。なるほど。さすが銀行マン、勉強になったよ、と改めて乾杯。

 その時、彼から思いがけない質問が、「Bankの日本語はなぜ『銀行』なんですか」である。最初は何の質問だか、分からなかったが、お金を扱うのだから「銀」よりは「金」、「金行」のほうが分かりやすいです、である。えー、思わず驚いてしまった。

 こんなこと考えたこともない。うーん、でもそう言われてみると、確かにお金を取り扱う場所であるから、「金行」のほうが理にかなっている。なぜ「金行」と言わないのか、これには参ってしまった。

 早速ネットで語源を調べてみた。そしてまた驚いてしまった。同じような疑問を持っている人がいて、いろいろ書いてある。明治初期、「Bank」を日本語に翻訳するとき、お金を扱う店ということで、中国語で店を意味する「行」を使って、「金行」と「銀行」の2案が有力になり、結局言い易さ、語呂のよさから「銀行」になったと、日本銀行のHPに載っている。さらなる驚きである。

 言葉の語源を調べることは言葉に興味を持たせるのに役立つと思うし、なかなか面白い。しかし語源など知らないほうがよかった場合も…。その一つが「孫の手」である。昔、上級者から日本語の「孫の手」って素晴らしいですね、と大いに感心してくれた。英語だと「back-scratcher」、背中をかく道具。確かに味も素っ気もない。それにひきかえ、日本語の「孫の手」は何か家族のぬくもりを感じるとのこと。なるほど、おっしゃる通りである。

 でもいつ頃から「孫の手」というのか、何気に調べてみたら、びっくりである。これは中国の古書に登場する仙女「麻姑(まこ)」に由来する。この麻姑は美人で、爪を長く伸ばしており、その長い爪で背中をかいてもらったら気持ちがいいだろうと…。そんな故事から中国で「麻姑の手」が登場し、それが室町時代に日本に入ってきた。そして時代とともに「まこ」が「まご」になり、「孫」の漢字が当てられたとのこと。

 またまた驚きである。でもこんな語源をその生徒に説明したくないし、語源も良し悪し、知らないほうが良かったかも。これから「孫の手」で背中をかくたびに、美しきされど悩ましき爪を想像してしまいそうである。

 

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