2017年5月25日 第21号

 日本語教育において自己紹介の指導はとても大事である。生徒はなるべくうまく言いたいと思う。しかし初級レベルでは残念ながら単語力に限りがあり、なかなか言いたいことが言えない。特に「私の趣味」などを自分の母語のように格好よく表現したいと思うのだが、なかなか難しい。

 最初は「AはBです」、例えば「私の趣味はテニスです」のような簡単な文型を導入している。しかしこれはすぐに困ってしまう。テニスやゴルフならいいが、アイスホッケーとなるとちょっと分かりづらい。

 いま北米ではアイスホッケーの頂点スタンレーカップのプレーオフで大騒ぎ。残念ながらバンクーバーのカナックスはプレーオフに出られなかったが、アイスホッケー大好き人間がとても多い。

 このアイスホッケーは、特に女性が「私の趣味はアイスホッケーです」というと意味が分かりにくい。たぶん観戦することを言いたいのであろう。でも「観戦」などという単語はまだ勉強していない。

 そこでなるべく早い時期に、動詞を使った「〜を見ること」や「〜をすること」の言い方を教えている。「アイスホッケーを見ること」や「アイスホッケーをすること」である。「私の趣味はアイスホッケーを見ることです」と言えるようになり、表現力がどんどん広がる。例えば「私の趣味はケーキです」ではなくて「趣味はケーキを作ることです」といえるようになる。

 そして中級レベルになると会話などで、「ケーキを作ることは嫌いですが、食べることは大好きです」など格好いい表現が出来るようになる。しかしここで恐い質問が待っている。「食べることが好きです」と「食べるのが好きです」はどう違うのか、である。いわゆる「こと」と「の」の違いであり、確かに我々日本人は両方気楽に使っているが、その違いなどまったく考えたことはない。

 でも違いは確かにある。例えば「居酒屋で飲むことが好き」と「居酒屋で飲むのが好き」は両方使えるが、「太郎が居酒屋で飲んでいることを見た」とは言わず、「太郎が居酒屋で飲んでいるのを見た」になってしまう。我々日本人はちゃんと使い分けている。

 さてその違いは? 先ず「の」は話し言葉や感情を表わすときによく使われる。確かに「居酒屋で飲む(こと/の)が好きです」はどちらも使えて、違いはあまり感じないが、「僕、居酒屋で飲むのが大好きだよ」のように話し言葉で自分の気持ちを表す場合は「こと」より「の」のほうが自然である。

 一方、「こと」は書き言葉や客観的な表現に用いる。「夏休みに日本に行くことを計画しています」は「こと」でなければダメだし、「芝生に入ることを禁じる」も「こと」でなければ落ち着かない。しかし「芝生に入るのはダメよ」などの話し言葉では「の」のほうがふさわしい。なるほど。

 硬い表現か話し言葉か、などでも異なってくる。確かに生徒にとって、この違いはかなり難しい。この違いを理解してもらう(こと/の)は超大変である。この場合はどっちがいいかしら?

 

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