2017年4月27日 第17号
これは料理上手な女性日本語教師の反省談話である。日本語学校でクラスの生徒に自慢の手打ちそばをご馳走しようとした。そして生徒は出来上がったおそばを見て「先生、このおそばとてもおいしいそうです」、彼女「えっ、おいしいそう」、そして思わず「その言い方はダメですよ」と厳しく叱ってしまったとのこと。確かに先生としては少し反省すべきかも。
しかし、せっかく作った自慢のおそばを見て「おいしいそうです」と言われると、誰でも何となく怒りたくなってしまう。でも日本語教師としては「おいしそうです」と言わせるべく、「おいしそう」と「おいしいそう」の違いをちゃんと教えなければならない。
日本語教育においてこの推量の「そう」はなかなか難しい。「目のそう」と「耳のそう」と二つあると説明している。まず「目のそう」は目で見て感じたときに使い、「い」で終わる形容詞、いわゆる「い形容詞」は「い」を取って「そう」を付けると教える。「寒い」は「寒そう」、「重い」は「重そう」、「おいしい」は「おいしそう」である。だから、おそばを見たときは「おいしそうです」と言えるように教えなければならない。
そしてもう一つの「耳のそう」は、自分は見ていないが、耳で聞いて感じた場合である。駅前に新しいそば屋ができ、友達からおいしいと聞いた。その場合は「おいしい」にそのまま「そう」を付けて「あの店はおいしいそうです」になる。こんなこと日本人には当たり前だが、「おいしそう」と「おいしいそう」の違いは生徒にとってはとても大事である。
しかしここでちょっとした落とし穴が待っている。「かわいい」という形容詞である。これも「おいしい」と同じ「い形容詞」なので、目で見た場合は「い」を取って「そう」をつけると習った生徒は、お母さんが抱っこしている赤ちゃんを見て「この赤ちゃんはかわいそうです」と言ってしまう。しかし間違いなくそのお母さんからは怒られてしまう。
でも作り方としては「かわいい」の「い」を取って、「そう」をつけた「かわいそう」は正しい。うーん、生徒が困ってしまうのも分かるが、日本人はこの「かわいそう」は違う意味になってしまうので、絶対言わない。でもまだ習っていない生徒にはどのように説明すればいいのか、こっちも困ってしまう。
この「目のそう」は目で見たときに感じたことを言うので、「かわいい」や「うつくしい」そして「きれいな」などの目で決める形容詞には「そう」は付きませんよ、と説明している。確かに、目の前の女性に「うつくしそうです」や「きれいそうです」はすごく失礼である。
しかし見てもはっきりしない場合、例えば写真に顔が半分しか写っていない人を見て、「この人うつくしそうですね」は使っている。では、顔がはっきり見えない赤ちゃんの場合は「かわいそう」になってしまうので、確かに日本人でも戸惑ってしまう場合がある。赤ちゃんは小さくてかわいいから、よく見えなくても「かわいいです」と言いましょう。日本語も「おもしろいそうです」ではなく、「おもしろそうです」でもなく、「おもしろいです」とはっきり言わせたい。
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