2018年4月26日 第17号
ここ数年、教師養成講座を受講する生徒数が極端に減少しており、飲み会の席などで、「矢野アカデミーは閑古鳥が鳴いているよ」と、つい愚痴の一つも出てしまう。この表現、日本人であればすぐ分かるが、確かに日本語学習者には難しく、上級者でも理解できる人はほとんどいない。
しかし、日本人でもこの閑古鳥がどんな鳥なのか、知っている人は案外少ない。これはカッコーである。でもなぜカッコーを閑古鳥と呼ぶのか、こんなこと考えたこともなかったが、最近「あること」から、このカッコーに入れ込んでしまい、いろいろ調べてみた。
この鳥、5月ごろ南方から日本に飛来し、繁殖が終わると、また南方に戻る渡り鳥とのこと。平安時代のころは、鳴き声が人を呼んでいるようなので、呼子鳥(よぶこどり)と呼ばれていた。そしていつしか漢字が喚子鳥(よぶこどり)に変わり、江戸時代初めに、なぜかこれを音読みにして、「かんこどり」になった。そして江戸中期に人里離れた閑(しずか)なところで鳴くので、漢字が「閑古鳥」に変わったとのこと。歴史を感じる言葉だが、ひょっとして当時の若者たちがふざけて作った若者言葉だったのかも?
平安末期の西行法師は「山里にこはまた誰を呼子鳥…」と「呼子鳥」を使った歌を詠んでおり、また江戸中期の松尾芭蕉も西行に共感して「憂き我を寂しがらせよ閑古鳥」と「閑古鳥」を使って、俳句を作っている。確かに時代、時代で呼び方が変わってきている。現代では「静かな湖畔の森の影から…」の童謡の中にカッコーとして登場してくる。閑古鳥はカッコーの別名として辞書に載っているが、現在では「あの店は閑古鳥が鳴いている」などの慣用句としてだけ使われている。
カッコーに入れ込んだ「あること」とは、托卵(たくらん)である。これは自分では巣を作らず、似ている鳥の巣に卵を産み、仮親に卵を托すこと。実は最近、カッコーが托卵するという記事を読んでびっくり。恥ずかしながらこの歳になるまで、この「托卵」という言葉も知らず、ましてカッコーがそんな変な、ずるいことをする鳥だとは全く知らなかった。
でもなぜカッコーが托卵するのか、生物学上まだ分からない面もかなりあるようだが、確かにオスの鳴き声はとても特徴がある。イギリスでは「cuckoo」、ドイツでは「kuckuck」など、日本と同じように多くの国はその鳴き声からこの鳥に名前を付けている。
またカッコー時計を日本ではなぜ「鳩時計」というか、面白いエピソードもある。当初はドイツで作られたカッコー時計だが、日本に入ってきたときは、まだカッコーは閑古鳥だったので、当然「閑古鳥時計」と名付けられた。でもこれでは誰も買いたくない、そこで平和の象徴である「鳩」を使ったとのこと。なるほど。
さらに、先輩からカッコーといえば、「One flew over the Cuckoo’s nest」(カッコーの巣の上で) この有名な映画を知らなければダメだよ、とお叱りを受けた。ぜひ見なければ。そしてなぜ題名に「cuckoo」を使ったのか、とても興味深い。日本語教師としてはあまり格好よくないが、カッコーへの入れ込み、もう少し続きそうである。
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