2019年6月13日 第24号

 1年以上前の事だ、「ウインズ」のコーラスを聴きに老婆は隣組へ一人で行った。初めてだから道を間違え、そこで出会った女性に聞く。幸いその人は隣組のボランティアで、楽しい話をしながら老婆を案内してくれた。「老婆のひとりごと」の読者でもあると言ってくれた。嬉しかったねぇ。

 その時のウインズのコーラスはメンバーの温かーい心が「和」になって会場に伝わり素晴らしかった。

 これは噂話だが、ある時、その指揮者が80歳を超え体力的に大変だから引退となった。

 そこで、引退と解散パーティーをした。ところが、ところがだ、そのパーティーが何と「再出発パーティー」になったのですって。きっと音楽を通してメンバーの心がしっかり繋がっているのでしょうねぇ。  

 そして、老婆はその頑張る指揮者にエネルギーを貰いに、2019年5月彼らの コーラスを聴きに再び隣組へ行った。ピアノはバンクーバー・シンフォニーの付属音楽学校ピアノ教授、合唱の合間に○○さんのヴァイオリンと○○さんのヴィオラの演奏。なんと、合唱ではヴィオラの演奏者がアルトを歌い、何だか歌う方達もそれぞれ素人ではなさそう?人数が7〜8人だけど、結果、始まったコーラスは、ぐわぁーんと聴き手の身体にも心にも響く美声の集まり、それは素晴らしい「合唱」だ。「ああ、よかった!」ソプラノの○○さん、どうして、そんな綺麗な声が出るの? オペラ歌手並みの声量。「いいなぁ」歌えるって。彼らが、美空ひばりの「川の流れ」を綺麗なベルを鳴らしながら歌っている時、老婆は急に昔が思い出された。美空ひばりに江利チエミ、そして、雪村いずみの3人娘。懐かしいはずの色々な民謡ではなく、このひばりちゃんの歌に老婆は涙していたのだ。  

 毎週、金曜日は大学でゼミのある日だった。東京都立大学からその教授は田舎の私の行く女子大に来てくれた。彼の勧めでランチタイムは合唱することになる。ドイツ語の得意なその教授から教わりながら『ザアインクナープレスラインスタイン…』と、ドイツ語で「野ばら」を2年間にたった1曲を歌った。2部合唱なので、ソプラノとアルトに分かれた。ある時、仲間の一人が「澄子さん、口だけ動かしてくれない」と優しく言った。その時、「ああ、私の歌はダメなんだ」と気付くが、気持ちよく「いいわよ。口だけね」と澄子さんは言って2年間。

 そして、数年後、澄子さんの結婚式場目白の椿山荘でのこと。仲間をぞろっと招待。皆、来てくれた。披露宴の最中着物の花嫁に、仲間の一人が近付き「皆で歌うのよ。貴方も来て」と言う。それではと花嫁は皆の中に入った。歌う寸前、隣人が「澄子さん、口だけね」とにっこりしながら囁いた。  

 「これがなくてもできる、あれがなくてもできる、できると思えば何でもできる」と人は言う。でもねぇ、それから、何十年、年月は経っても私の音痴は治らない。でも音楽好きは年齢と共に増してゆく。

 ある時、日本で「オペラ名作127」という本を入手。そこには127のオペラが紹介されていた。そして、この20数年間、自分が観て来たオペラを1回ごとに印をつける。観たオペラはHD、普通の映画、テレビ、ステージ等でも観る。ロンドンのコベント・ガーデン・ロイヤルオペラに一人で観に行くことも、ニューヨークのメトロポリタン・オペラ、サンフランシスコ・オペラ、もちろんバンクーバー・オペラ、UBCオペラと行けるだけ行くのだ。「同じオペラを何回も観て、面白いの?」と聞かれるが「実に面白い」。オペラは本当に「総合芸術」だと思う。

 ここに「音楽の会」がある。この老婆も入会、そろそろ20年になる。隔月だが、学ぶことは山ほどだ。しかし、老婆は覚えられない。それでも、先生の話を聴く度「ああ、そうかぁ」と心に何か刻み、また色々オペラを観に行く。本でも、グーグルでも調べ、毎回観るたびに前回との違いも面白く、老婆は夢中になる。ただ観る目が難聴者の楽しみ方になっているんだろうかねぇ。そうやって観たオペラの数は何と百数十、まあ、言ってみれば20年間かかってはいる。

   庭の花も植木もよい、友達との会食、画展、旅行、散歩も、又たまーに出かけるコーラスやオペラなど、みな難聴者でも楽しめるみたいです。でもねぇ、どうも私の周りにあまり難聴者がいないのが不思議なのです。

許 澄子

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。