2019年3月28日 第13号

 ある人に会った途端、老婆は「以前、お会いしましたね」と声をかけた。と「ええ、商工会の◯◯◯で」と答えが返ってくる。しばらくしてから、「新年会でもお会いしましたよね。」とその人は言った。さらにその会の終わり頃、名刺交換の際、「この前、名刺を頂かなかった。」と言った。この人の「すごい記憶力!」に驚いた。だって、この老婆、「今朝、何食べたっけぇ?」という状態だから、でも、「なぜ、特別、彼を覚えていたかって?」それは老婆の知らない世界、「築地の卸売市場」で働いていたと初見で聞いていたからだ。

 今日はJWBA3月例会で、彼、つまり疋田さんが「魚」の話をしに来てくれた。「魚」の食べ方ではない。「魚」を使った商売の話のためだ。 彼の話に、築地市場のセリは、手ヤリで行う、1から9まで、決められた指の形で、値を示すのを彼がやって見せる。ある時は漁船に乗り、たくさんの魚を網にかけ、その中から、使える魚と捨てる魚により分けるが、彼は「捨てる魚」にも目を向ける。それらを「使えないだろうか?」、と考える人のようだ。日本以外の国では食用魚は10種類くらいしか知られていないが、日本では350種類以上あるという。それを何とか外国でも考えてもらえるようにできないかと思案もするのだ。いろいろなアイディアが山積のようだ。JWBAのメンバーも目を輝かせて聞き、また一緒に考えている様子。そこに老婆にとって魅力ある未知の世界がさーっと広がっていった。

 昨年、年明けだった。無印の北米社長の秋田さんがビジネスの話をJWBA例会でしてくださった。彼の地球環境に対する熱い思いがオーガニック綿花を育て、諸物の作成につなげていく話に感動した記憶があるが、昨日会った疋田さんも経験にもとづく魚商売の着目点が非常に広く、前向きで、実におもしろい。

 この2月下旬、入場券販売開始と同時に、数日で完売になったこの日系女性企業家協会主催「茂木健一郎の講演会」は4月20日だ。老婆はもう彼の本を日本から取り寄せ『IKIGAI』『成功脳と失敗脳』『頭は「本の読み方」で磨かれる』と3冊読み終わった。そして、さらに彼のブログを読むとこんなことが書いてあった。

 ある研究グループによると、音楽を聞いた時に、脳の中で報酬系が活性化する。これは不思議なことだ。だってもともと音の振動でお腹がいっぱいになったりしないんだから。ここで問題なのは、全く同じ音楽でも、それが好きだ、愛していると思っている人の脳の中では報酬系が働き、そう思っていない人の脳はそのような活動がないということだ。つまり、ある音楽を好きな人にはそれは喜びの泉で、そうでない人にとっては、単なるノイズに近くなる。報酬系の活動は、その上流の神経活動(原因になった神経活動)の強化をもたらす。この「上流の認知回路の強化」ということが、脳の認知機能の強靭さ(robustness)を育む上でとても大事である。さまざまなジャンルの音楽を聞いて、そこからどのようなchill(ゾクゾクするような喜び)を引き出せるかで、その人の脳の強靭さが決まってくる。「好きな音楽をたくさん持っている人は、それだけ、宝物を持っているようなものである。宝物の数だけ、脳が強靭になる」。  

 難聴老婆に音楽はない。悲しいねぇ。でも、最近、友人の米寿の祝会に出席、お嬢さん作成の「黄色ちゃんちゃんこ」と「帽子」をかぶり、明るい大勢の友人に囲まれた88歳笑顔の髭爺様。彼を見ながら老婆はふっとある情景を思い出した。以前、マイケルJ・フォックス劇場でVIP席に座る、彼らご夫妻の前を、通る人、通る人、皆がニコヤカに挨拶し、2人は自然で、こぼれるような笑顔の返礼。あの時だ。笑顔を与え、笑顔を受け、多くの人と苦楽共に歩んできた長い人生。黄金の笑顔、それは彼が88年で築いたものだ。

 茂木健一郎氏に言わせると笑顔は「プラセボ効果」もあるという。微笑んで、前向きに生きることで、私たちは明日へ挑戦する勇気を得る。 微笑むだけで人生の多くの問題を解決することもできるのだと彼は言っていた。

 「愛の波動」を振りまき、口から出る言葉が常に相手を安らげ…、勇気づけ、そして、温かくさせるものであるように…、なぁーんて、この老婆も「脳の報酬系活性化」に役立つ言葉と笑顔になったらいいのにねぇ…。

許 澄子

 

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