2019年4月4日 第14号
日本人の死因の上位を占める三大疾患である、心疾患、脳血管疾患、がん。高血圧症は、そのうちの心疾患や脳血管疾患を引き起こす主要な要因です。しかし、血圧を測定しない限り、自覚症状や他覚症状はほとんどありません。常に血管に高い圧力がかかり、心臓も高い圧力の血液を送るため、負担がかかり続け、脳梗塞、心筋梗塞、脳卒中、動脈瘤など、致命的な合併症を引き起こす原因になります。また、細動脈にも大きな圧力がかかり、腎不全に至ることもあります。
自覚症状のないまま進行することから、高血圧症は、糖尿病、脂質異常症と並び、「サイレント・キラー病」と呼ばれる病のひとつです。初期には症状が現れないため、自覚症状がないまま病気が進行し、症状が現れた時には病気はかなり進行しています。実際は、体の中で動脈硬化が静かに進行しているにもかかわらず、病気に気付かず、または気付いていても「自分は大丈夫」と治療をせずに放置しておくと、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞などが起こり、命を落とすことにもなりかねません。仮に一命を取り止めても、その後の生活の質が大きく変わる後遺症が残る可能性もあります。
さて、認知症にはいろいろな種類がありますが、大きく分けて2つに分類できます。脳の中の血管に障害が出ることにより発症する「脳血管障害による認知症」と、神経細胞が少しずつ減り、脳が萎縮することで発症する「神経変性による認知症」です。そのうち、特に高血圧症と関係が深いとされているのが、 「脳血管障害による認知症」です。それを裏付ける研究が、「久山町研究」です。
「久山町研究」とは、1961年に始まった、九州大学が福岡県糟屋郡久山町で行っている、 地域住民を対象とした、生活習慣病の原因究明と予防に関する疫学調査です。研究のデータに基づく健康管理のあり方は、「ひさやま方式」と呼ばれ、国内外の高い評価を受けています。「ひさやま方式」の健康管理とは、検診を受けた住民の追跡調査および亡くなった人の解剖検査のデータを集め、生活習慣病の原因や予防法を明らかにし、その情報を、住民の健康診断を通して健康管理に役立てる方法です。
「久山町研究」で1998年から2005年に行われた調査では、中年期および老年期の高血圧症は、「脳血管性認知症」発症について有意な危険因子だったという結果が出ています。調査では、血圧を「上」と「下」の高さ(拡張期血圧と収縮期血圧の高さ)により、4つのステージに分類し、中年期および老年期の「脳血管性認知症」を発症する確率を比較しています。
血圧が正常な人(120mmHg/80mmHg以下)が「脳血管性認知症」を発症する確率を1・0とすると、「高血圧前症」(120〜139 mmHg/80〜89 mmHg)は中年期で2・4倍、老年期で3・0倍、「ステージ1」(140〜159 mmHg/90〜99mmHg)では、中年期で4・5倍、老年期で6・0倍、「ステージ2」(160mmHg/100mmHg以上)では、中年期で5・6倍、老年期で10・1倍と、血圧が高くなるに従って、「脳血管性認知症」を発症しやすくなるという結果が出ています。なお、「脳血管性認知症」については、高血圧症が有意な危険因子という結果が出た一方で、「神経変性による認知症」である「アルツハイマー型認知症」と血圧との関係については、ほとんど差が見られず、高血圧症においては、「脳血管性認知症」のみが発症しやすいという研究結果になっています。
特に高齢者の場合、高血圧症以外にも、さまざまな病気を抱えていることが多いため、 認知症予防の観点だけでなく、致命的な合併症を予防し、生活の質を保つ観点からも、血圧を正常範囲に保つことが大変重要です。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定