2019年5月9日 第19号
近年、「若年介護者」と呼ばれる、15歳から29歳以下の若い世代の「家族介護者」が増加する傾向にあります。他の世代の「家族介護者」と同じく、家族や友人の日々の生活の介助、出かける際の送り迎え、家事全般など、介護に関わる役割を担っています。
カナダ統計局のデータに基づく報告(2012年)では、この世代の若者の4人に1人が介護に関わっています。そのうちの5人に2人が介護しているのが、祖父母です。配偶者に先立たれた後も、住み慣れた家を離れたくない高齢の祖父母。一般的には、子どもが介護をすることになりますが、核家族化や共働きが増えたことで、子どもが親の家に引っ越すことが難しい場合もあります。そこで、子どもではなく、孫が同居して、祖父母の面倒を見るケースもあります。
例えば、高校生の孫が、祖母の介護をしている場合を考えてみます。まず、朝、学校に行く前に、二人分の朝食の準備をしながら自分のお弁当作り。1時間目の授業に間に合うように登校し、学校が終わったら真っすぐ帰宅。部活動はしていません。そのまま夕食作りを始め、食後の片付けを終えた後、一息つく間もなく、祖母の入浴の介助。入浴後、祖母がしばらく休んでいる間に、ようやく学校の宿題を始めることができます。宿題を終えると、すでに夜も遅く、就寝時間も間近。祖母は体の自由がきかなくなってきているため、洗濯や掃除も孫の仕事です。祖母が夜中にお手洗いに起きて転倒することが心配なので、寝室は別にせず、同じ部屋で寝ています。
普通の高校生の生活からはかけ離れた毎日です。友達から遊びに誘われても、祖母を自宅にひとり残して行くのが心配で、ほとんどの誘いは断ります。自由に遊びに行ける友達が羨ましく思えることもあります。そんな孫を祖母は心配します。自分の世話のために生活が制約され、今しかない10代の時期を孫が自由に謳歌できないことに、葛藤も感じています。
祖父母の介護の次に多いのが、親の介護に携わる「若年介護者」です。晩婚化と熟年離婚の増加により、20代にして子どもが親の介護を余儀なくされるケースが増えています。配偶者が介護をするのが一般的ですが、死別や離婚をしている場合は、子どもに介護の役目が回ってきます。子どもは既に学業を終え、働いているものの、親の収入は年金のみという場合も少なくありません。職場の理解が得られず、子どもが仕方なく介護離職を選ぶしかないこともあります。
例えば、20代の会社員が、父を介護している場合を考えてみます。50代後半に熟年離婚してそれほど経たない時期に、若年性アルツハイマー型認知症と診断され、要介護2の認定を受けています。体調を崩して入院中で、入院費は本人が年金と貯金を切り崩して賄っています。身体的には問題がないため、近いうちの退院を勧められています。仕事をしている子どもは、日中は留守にせざるを得ず、ひとりで出かけてしまう父が、退院後に入れる介護施設を探しています。入所費などのまとまったお金が必要ですが、父ではなく、子どもが支払う予定です。
「若年介護者」 に特徴的なのは、介護者自身が身体的、感情的、精神的な成長段階の途上にあり、人生設計が固まっていないことです。学生生活や就職、仕事への介護の影響の他に、年齢相応の生活ができないことが、「若年介護者」ならではの問題点です。結婚、出産など、将来のことを考えたくても、介護で見通せません。その結果、自分の将来の計画を一時棚上げにして介護を続けることになり、夢を諦めざるを得ない場合もあります。また、介護を続ける中で、若くして、大人としての責任や判断を求められる機会が多くなります。介護経験のない周囲の友達には、状況が理解してもらえず、相談相手はいません。
介護で「若年介護者」の未来が閉ざされ、夢を諦めずにすむようにするためにも、周りの「大人」の理解や支援が必要とされています。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定