2019年4月18日 第16号

 携帯電話を使い始めて、どのくらいになりますか?

 SMS(ショート・メッセージ・サービス)機能やインターネット閲覧機能を備える携帯電話が出回り始めたのが、1990年代後半から2000年代にかけてのこと。その後、日本では、ガラパゴス携帯(略称ガラケー)とも呼ばれる高機能携帯電話が登場し、さらに次世代の携帯電話として、スマートフォン(略称スマホ)が一般に普及し始めました。信じられないかもしれませんが、それからまだ10年ほど。今では、年端もいかない子供まで、慣れた手つきでスマートフォンをスワイプする時代になりました。

 Eメールの送受信、SNS、ゲーム、ニュースなどの情報収集に読書、オンラインで買い物までできるスマートフォン。使い方により、とても便利な電子機器です。しかし、最近では、スマートフォンやパソコンなどの使い過ぎにより、「デジタル認知症」(または「スマホ認知症」)になる人の増加が問題となっています。

 「デジタル認知症」 とは、スマートフォンやパソコンなどの情報端末を使い過ぎることによる、 脳への情報量過多や情報端末依存が原因で、判断力や集中力、記憶力が低下するなど、脳の機能が衰える状態をさします。そのおもな症状は、「記憶障害」と「精神障害」です。インターネットやスマートフォンを使う人であれば、年齢や性別に関係なく、誰でもなる可能性があります。特に、脳が「大人の脳」になる発達過程にある30歳前後までの人は、症状がひどくなるケースが多いようです。また、認知症であれば、例え本人が気付かなくても、周りの人が何かおかしいと気付くものですが、「デジタル認知症」の場合、症状は認知症に似ていますが、周囲の人も気付かず、本人にも自覚がないまま症状が悪化し、本当の認知症になる可能性もあると言われています。

 では、なぜスマートフォンやパソコンの使い過ぎにより、このような症状が現れるのでしょうか。その大きな原因は、脳が、入ってくる情報を処理しきれないことにあります。デジタル媒体としてのスマートフォンなどの情報端末と、アナログ媒体としての雑誌や書籍を比較すると、スマートフォンは雑誌や書籍に比べ、目から入ってくる情報量がかなり多いといわれています。入ってきた情報量が脳の処理能力の許容量を超えると、記憶する必要があるかどうかを判断できず、すべてを取り込もうとし、機能が停止してしまいます。メモリ不足で処理速度が低下し、パソコンがフリーズしたような状態に陥ります。特に、テレビを見ながら、手元のスマートフォンでSNSやゲームをすることが、脳に入る情報が許容量を超える一番の原因になると考えられています。

 朝起きて、ベッドを出る前にスマートフォンをチェック。お手洗いにも持って行き、他のことをしていても、つい手が伸びてしまう。朝起きてから夜寝るまで、四六時中、何らかの電子機器を使う毎日に、脳は休む暇もありません。

 スマートフォンからアクセスできるEメールやSNSは、脳の「報酬系」の幸福ホルモンである、「ドーパミン」や「エンドルフィン」の分泌を活性化させる作用があります。これらのホルモンが過剰分泌されると、脳内物質のバランスが崩れ、脳の疲れやゴミが溜まってしまいます。デジタル機器を使用することによる脳の疲れを取るためには、「デジタルデトックス」と呼ばれる休息を脳に与えることが大切です。スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器を完全に手放すというよりも、一定期間、デジタル機器との距離を置き、現実の世界での人とのコミュニケーションや自然との繋がりに目を向け、脳に入ってくる情報量を減らすことが目的です。

 買ってはみたものの、「積読」になっている本はありませんか? 最近、近くのトレイルへ歩きに行っていますか?

 脳の健康のため、ひいては全身の健康のためにも、時には、アナログ生活で「デジタルデトックス」、してみてください。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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