2019年4月25日 第17号
以前、このコラムで、「サルコペニア」(第96回)について書いたことがありました。
「サルコペニア(sarcopenia、加齢性筋肉減少症)」は、加齢に伴う筋肉量の減少や、それが原因で筋力や身体機能が低下することをいい、この状態になるとあまり体を動かさなくなること、それにより、食欲が低下し少食になること、ひいては慢性的な「低栄養」に繋がること、このような状態が続くことにより、「サルコペニア」を助長し、悪循環に陥ることを述べました。
「サルコペニア」の状態になると、筋肉量の減少や低栄養により体重の減少も見られます。骨量も低下し、骨粗しょう症にもつながります。筋肉量の減少は、筋力の衰えに繋がり、特に握力の低下は、体力の低下と関連しています。「握る」、「持つ」といった動作がうまくできなくなると、日常生活で困る場面が増えてきます。また、身体機能が低下し、体のバランス感覚が衰えるため転倒しやすくなります。さらに、骨粗しょう症で骨がもろくなっていると、転倒した際に骨折(特に大腿骨)しやすくなります。その結果、寝たきりになるリスクも高まり、「サルコペニア」は要介護に至る要因のひとつと考えられています。それだけでなく、運動量の低下は、脳細胞の萎縮につながることから、認知症との関係も研究されています。
この「サルコペニア」に肥満が合併した、「サルコペニア肥満」という状態があります。「サルコペニア肥満」とは、筋力が低下しているにもかかわらず、内臓脂肪が多い状態で、「サルコペニア」のみ、または「肥満」のみの場合に比べると、高血圧や、転倒、転倒による骨折、死亡のリスクが高まります。弱い筋力で重い体重を支えているため、膝の痛みなどで思うように動けなくなり、運動不足になり、さらに「サルコペニア肥満」が進行します。
一般的に、「肥満」とは、正常な状態に比べて体重が多い状況、または、体脂肪が過剰に蓄積した状況をいいます。「肥満」は、生活習慣病をはじめとして、多くの疾患の危険因子となり、先進国では、病気の主要原因は、「肥満」によるものとされています。一般に、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割って算出する体格指数(BMI)が肥満の判定に用いられます。計算方法は世界共通ですが、「肥満」の判定基準は国により異なります。ちなみに、日本肥満学会では、統計的に最も病気にかかりにくい数値22を標準体重とし、25以上を「肥満」としています。BMIが25以上の場合、「サルコペニア肥満」の可能性があるため、単なる「肥満」かどうかを見極める必要があります。
「サルコペニア肥満」の場合、通常の「肥満」より生活習慣病にかかりやすく、運動能力、特に歩行能力が低下するため、寝たきりになるリスクが高まります。また、体重や体型は若い頃と変わらず、外見上は変化に気付きにくいことが多いため、知らないうちに生活習慣病が進行しやすくなります。高齢者に限らず、無理な食事制限によるダイエットからくる栄養不足や、運動不足による筋力の衰えで、若い人でも「サルコペニア肥満」の予備軍になりえます。
ただし、高齢者には、「肥満」の判定に用いられるBMIの数値が当てはまらないことも指摘されています。というのも、中年期の「肥満」は死亡や認知症のリスクを高めますが、高齢者の場合は、「低栄養」で体重が減っていくほうが危険で、BMIが高いことは、かえって死亡や認知症のリスクが減り、年を取ってからの急な体重減少は、認知症の発症リスクになるという報告もあるためです。
「サルコペニア肥満」の予防には、筋肉を育てて脂肪を燃焼させる運動をし、高齢になると摂取量が少なくなりがちな蛋白質の摂取に心掛けながら、栄養バランスの良い食事をすることが効果的です。いくつになっても、必要な栄養を摂り、体を動かすことが、健康を維持するための秘訣です。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定