2019年6月6日 第23号

 先日、オンラインのニュースサイトで、老人ホームに住んでいた入居者が「孤独死」していたというニュースが掲載されました。24時間、職員が常駐している施設で起きた出来事です。

 亡くなっていたのは、兵庫県明石市にある介護付き有料老人ホームに住んでいた、91歳の男性です。自分の部屋で倒れているのを、死後2週間近く経ってから施設の職員が発見しました。男性の遺体は放置されていただけでなく、すでに腐敗が始まっていました。

 この男性は、2000年に妻と一緒に入居。妻が亡くなってからも、同じ部屋にひとりで暮らしていました。身の回りのこと全般が自分でできたため、施設の介護サービスをはじめ、清掃サービスやレストランでの食事など、いずれも利用していませんでした。そのため、施設のスタッフとの関わりが少なく、発見が遅れたようです。施設では、「自立」の人について、安否確認のため、職員が各部屋を訪問する制度はありませんでした。しかし、家族に体調不良を訴えていたため、家族が施設側に注意深い見守りを依頼していました。依頼があってから数日後、男性の姿を見かけたことから、体調が回復したと判断し、その後の安否確認を怠っていました。施設内で起きた「孤独死」を問題視した明石市は、調査を行うため、「緊急検証チーム」を設置しました。

 本来、「孤独死」とは、おもに一人暮らしの人が、誰にも看取られることなく、住居内などで、生活中の突発的な疾病などにより死亡することを意味します。特に、重篤化しても、助けを呼べずに亡くなっている状況を指します。このような亡くなり方は、特に都市などの地域コミュニティーが希薄な地域が多いとされています。また、震災などによって地域コミュニティーが分断されている場合にも、発生しやすいとされています。「孤独死」が起きやすい環境として、①高齢者である(特に男性)、②独身者である(配偶者との死別も含む)、③親族がいないか、いても近くに住んでいない、④定年退職または失業により、職を持たない、⑤慢性疾患がある、⑥賃貸住宅に住んでいる、というような特徴が挙げられます。

 近年、増加傾向にある「老老介護(高齢者が高齢者を介護する状況)」などでも、介護していた側が急病などで突然亡くなり、その影響で、動くことのできない要介護者側が餓死するケースも多く、形の違う「孤独死」として問題となっています。要介護者側の死亡については、発生の要因から見ると、「孤独死」と変わらず、介護している側が亡くなってから、要介護者側が数日から1週間程度まで生きていたと考えられ、発見が早ければ、亡くならずにすんだ場合も多く見られます。

 一人暮らしの高齢者、またはその家族が介護施設を選ぶ場合、24時間体制でスタッフが常駐していることも選択の理由のひとつになるでしょう。自立した生活ができる人でも、いざという時には施設のスタッフがいるという安心感があります。家族にとっても、それは同じです。体調の変化など、いつもと違う状況であれば、それを施設側に報告することにより、何らかの対応はしてくれるだろうと期待します。しかし、今回問題になっている施設は、その期待を大きく裏切ったことになります。同じ県内の他の有料老人ホームなどからも、施設の対応を疑問視する声が上がっているようです。

 何らかの事故により、介護施設の入居者が死亡した場合、通常、過失を犯した介護施設あるいは施設職員が、業務上過失致死罪に問われます。遺族が、過失を犯した関係者を相手取り、損害賠償請求の訴訟を起こす場合もあります。明石市の施設のケースは、誰かが何かをした結果ではなく、誰も何もしなかった結果、起きています。どのような罪状になるか、経過が注目されます。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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