2019年6月27日 第26号

 カナダに引っ越してきてから、早15年が過ぎました。

 以前住んでいた南国の国から、日本経由でカナダに引っ越して来る途中、久しぶりにお正月を日本で過ごしました。子供達には、初めての日本のお正月です。しかし、それから一ヶ月と経たないうちに、急に父が亡くなりました。

 父には進行性の病気があり、母が介護をしていました。自宅で生活するにはまだまだ支障はなく、身の回りのことも大方問題なくできていました。同じ病気の中でも進行が緩やかな種類で、しばらくは元気でいられるはずでした。症状のひとつである筋肉の衰えからきた、肺炎を拗らせての呼吸困難が亡くなった原因です。母の落ち込みようは半端ではなく、正式な診断は受けていませんでしたが、しばらくは鬱状態にあったと思います。その後10年ほどで、母の介護が始まりました。

 カナダに引っ越して来る代わりに、父の介護の手伝いも含めて、日本に戻ることも選択肢のひとつでした。引っ越しのきっかけは、子供達の就学です。ともに自営業だった私たち夫婦には、駐在員の海外生活のパッケージのようなものはなく、すべてが自腹。カナダでも日本でもなく、英語圏でもない国で子供を学校に通わせるとなると、日本人学校かインターナショナル・スクールという選択肢が主になります。しかし、現地の日本人学校は中学部までしかなく、インターナショナル・スクールは、その国の物価に全く比例しない高い授業料を支払うことになり、自営業夫婦には、経済的な負担が大きすぎました。実は、まだ小さかった子供達が新しい生活に順応できるかどうかは、それほど心配していませんでした。しかし、日本で仕事をした経験はあるものの、日本の働き方や労働環境にどうも馴染めなかった夫を、再び日本の生活に戻すことは、 正しい選択肢とは考えられませんでした。

 父が亡くなった後、母をカナダに呼び寄せることを考えなかったわけではありません。実際、母に相談をしてみたこともあります。しかし、母には母の生活があり、習い事もしていましたし、年に一回会う古くからの友達のグループもありました。見ず知らずの、言葉の違う国で新しい生活を始めることのメリットとデメリットを考えた時、あえてこの選択肢を選ぶことはできませんでした。親の「呼び寄せ」については、専門家の間では、よほどの理由がない限りしないほうがいいという意見が主流のようでもあります。親にはそれまで築いてきた生活があり、知り合いの全くいない、見ず知らずの場所に呼び寄せることは、かなり大きなストレスの原因になります。

 生活の拠点が日本でなく海外になった時から、親の死に目にあうことは諦めていました。しかし、「介護」については、漠然とではあるものの、なんとなく覚悟はできていたつもりです。ただ、いざ現実となると、海外からの「遠距離介護」は思いの外、大変でした。

 厚生労働省の国民生活基礎調査(2016年)では、主な介護者は誰かという質問に対し、「同居する家族」が58・7%、「別居の家族」が12・2%でした。この数字からは、別居の家族が、遠距離で介護をしているかどうかは見えてきませんが、年々、その割合が高くなってきているようです。これまで、介護が必要になったら、同居することが当たり前と考えられてきましたが、実際は、「遠距離介護」が増えてきているのかもしれません。

 同居、別居、遠距離に関わらず、親が最善の生活を続けるために介護で大切なのは、 介護に関わる専門家との連携で、地理的な距離はあまり関係ないようです。それでも、何かあったときにすぐに飛んでいけないことが悩みの種ではあります。しかし、一昔前と違い、今は連絡手段が多様化しており、電話だけでなく、メールやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で連絡を取ることができます。これらを有効利用することで、身体介助ができなくても、 介護のサポートになります。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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