2019年4月11日 第15号
唐突ですが、自分のコレステロール値や中性脂肪値、知っていますか?値が高めと言われたことはありますか?
脂質は、私たちの体になくてはならない大切な栄養素のひとつです。血液中に含まれる脂質を、「血中脂質」といい、「コレステロール(血清コレステロール)」と「中性脂肪(トリグリセライド)」がその主なものです。「コレステロール」は、細胞膜を作る成分で、ホルモンや胆汁酸などの原料でもあります。「中性脂肪」は、脂肪組織に蓄えられるエネルギー貯蔵庫としての役割や、皮下脂肪となり、体温の保持や衝撃から身を守るクッションの役割を果たします。
「脂質異常症」とは、これらの脂質が、体の中で正常に処理されなくなったり、食事から多く摂りすぎたりすることにより、 一定の基準より多い状態のことを言います。 「脂質異常症」には、「高中性脂肪血症」、「高LDLコレステロール血症」、「高HDLコレステロール血症」の3つの種類があります。
血液中に必要以上に脂質が増えると、「動脈硬化」を起こしやすくなります。「動脈硬化」になると、血管内が狭くなるため、血流が悪くなったり、血管がもろくなったりし、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血などを発症するリスクが高まります。特に高血圧の人の場合、もともと血管に高い圧力がかかっているところに、「脂質異常症」が加わると、血管壁が傷つきやすくなっているため、「動脈硬化」がさらに進行することが考えられます。また、血糖値を下げる働きを持つホルモンであるインスリンの分泌量が不足すると、「中性脂肪」が体内で燃焼されにくくなり、血中の「中性脂肪」が増えてしまいます。そのため、糖尿病の人は、「脂質異常症」になりやすく、「動脈硬化」が進むリスクが高まります。
認知症の多くは、発症する原因が未だ解明されておらず、日々、研究が進められています。その一方で、認知症と生活習慣病との関係が明らかになってきています。「脂質異常症」との関係もそのひとつで、「脂質異常症」の持病がある人は、ない人に比べ、ある種類の認知症の発症率が高いということがわかってきています。そのひとつが、「脳血管性認知症」です。これには、「動脈硬化」が大きく関係しています。
たくさんの血管が張り巡らされている脳は、思考や行動、生命維持など、人間が生きていく上で必要なことすべてを司る司令塔です。「脂質異常症」により「動脈硬化」が進行すると、脳内の血管でも硬化が進み、 血流が悪くなります。「脳血管性認知症」は、脳の血流が悪くなることが最大の原因とされており、「脂質異常症」による「動脈硬化」が発症のリスクを高めることが考えられます。
また、「脂質異常症」によるコレステロール値の上昇は、「アルツハイマー型認知症」と密接に関係していると考えられています。その関係を示すもののひとつが、「アポ蛋白」です。「アポ蛋白」 は、脳内の「コレステロール」や「中性脂肪」の代謝に重要な役割を果たしています。中でも、「アポ蛋白E」は、「アルツハイマー型認知症」の人の脳内の病変部分に沈着することがわかっています。また、 コレステロールと「アルツハイマー型認知症」の関係に関する研究では、「アルツハイマー型認知症」を発症する前の、中年期の「高コレステロール血症」が、将来の認知症の発症に影響するとの報告がされています。(毎日新聞掲載記事『認知症・50話』第41回参考)
高血圧、糖尿病などと並び、「サイレントキラー病」と呼ばれる「脂質異常症」。いずれも、初期には自覚症状が表れないまま進行し、気付いた時には合併症を引き起こしています。認知症との関連も解明されつつある中、病気の発症を防ぎ、進行を抑えるには、食生活や日常生活を根本的に改善することが早道です。
さて、何から始めますか?
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定