2019年3月21日 第12号

 夕方5時になると、必ず聞こえてくる「夕焼け小焼け」。初めて聞く人は、少々驚くかもしれませんが、日本では当たり前の情景です。

 この放送は、日本の行政が市町村単位で実施する、防災行政無線屋外拡声スピーカーによる放送です。放送する内容には、「定時放送」、「一般放送」、「緊急放送」があります。夕方5時の「夕焼け小焼け」は「定時放送」にあたり、特定の音楽を、毎日定時に放送します。「一般放送」は、振り込め詐欺など、市民の注意喚起による犯罪防止、選挙の棄権防止に関する情報を提供し、原爆の日、終戦の日などの、特定の日にも放送を行います。「緊急放送」は、地震・津波などの災害時に行われる放送で、市民に危機が迫っている時に、「避難勧告」を発表するなど、必要な情報を放送します。さらに、警察署から依頼を受けた行方不明者の捜索に関する放送も実施しています。

 行方不明者の捜索に関しては、行方不明になっている人の年齢、背格好、服装、いなくなった日時や場所などの情報を放送し、見つかった際には、その報告の放送も行います。その他に、都道府県警のウェブサイトの行方不明者情報掲載ページでも、行方不明者を探すことができます。情報伝達手段の充実を図るため、ツイッター(「防災ナビツイッター」)による情報配信も行われています。 防災行政無線の情報や防災に関する情報を随時、配信しています。

 さて、カナダにお住いの皆さんは、「アンバー・アラート」をご存知かと思います。「アンバー・アラート」とは、児童(未成年者)の誘拐事件および行方不明事件が発生した際、テレビやラジオの公共メディアを通じて発令される、緊急事態宣言(警報)の一種です。管轄の警察機関が発令し、それと同時に、ラジオ局、ケーブルテレビ局、地上波テレビ局、および、任意登録者のEメールアドレスや主要交通路に設置された電光掲示板など、あらゆるメディアを通じて、「アンバー・アラート」が、当該地域およびその周辺の住民に知らされます。特に、テレビ局やラジオ局などの公共メディアは、通常の番組を中断し、「アンバー・アラート」放送を行います。誘拐された児童、および誘拐したとみられる人物の氏名や特徴、運転する車の種類やナンバー・プレート番号などが報告されます。主に、カナダやアメリカ合衆国で運用されており、児童誘拐事件の解決に一定の成果を上げています。

 この「アンバー・アラート」に代わり、行方不明の高齢者を対象にした同様のサービスが、「シルバー・アラート」です。「シルバー・アラート」は、高齢者世代の人が行方不明になった時の他に、多くの場合、発達障害がある、あるいは認知機能が低下している人が行方不明になったケースも対象になります。ただし、「シルバー・アラート」は「アンバー・アラート」ほど広まっておらず、カナダ国内でこのシステムが正式に導入されているのは、アルバータ州とマニトバ州のみです。サスカチワン州およびBC州で、州政府への正式導入の呼びかけが続いています。

 BC州で導入を呼びかけているのは、 行方不明のまま5年以上経つ男性の息子さんです。2013年9月、コキットラム在住の64歳(当時)のこの男性は、いつも通り散歩に出かけたまま行方不明になり、未だ見つかっていません。この男性はアルツハイマー型認知症の診断を受けていました。全国規模での「シルバー・アラート」システムの導入を呼びかけている人たちもいます。今年2月、カナダの国会下院に有志による署名が提出され、全国規模でのシステム導入を正式に要請しています。

 2030年には、認知症と診断される人の数は、現在の2倍になると予想されています。また、特にアルツハイマー型認知症の人の60%が、少なくとも一度は、ひとりで外出したまま道に迷うといわれています。

 「シルバー・アラート」システムの早急な導入を願って止みません。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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