2019年2月21日 第8号

 つい先日、認知症の女性が、行方不明になって8カ月ぶりに保護されたというニュースを読みました。

 保護されたのは、タイ北部のチェンライ県に住む女性。近くに住む息子に会いに行った後、自宅に戻るつもりで歩き続け、国境を越えてラオスに入り、さらに歩き続け、自宅から650キロ近く離れた中国南部の雲南省昆明市で、高速道路を歩いているところを、中国警察に発見されました。持っていたタイの身分証明証から、タイ領事館を通して娘に知らせが行きました。すぐにタイ外務省、および中国領事館から、それぞれ、迎えに行く娘とふたり分のパスポートとビザが発行され、帰国の途につきました。

 この女性、バンクーバーからカルガリーまでの距離(653キロ/TransCanadaHighway.com調べ)、あるいは、東京から徳島(640キロ/bike-ism.net調べ)に近い道程を歩いたことになります。これは極端なケースかもしれませんが、認知症の人が行方不明になり、見ず知らずの土地で保護されることは、それほど珍しいことではありません。

 日本では、警察庁のまとめによると、2017年に警察に届け出のあった行方不明者のうち、認知症が原因だったケースは1万5863人(前年比431人増)に上っています。このうちの227人は、同年内に所在が確認できなかったと報告されています。統計を取り始めた2012年以降、認知症が原因で行方不明になる人が、5年連続で最多更新をしています。

 行方不明になった認知症高齢者や記憶を失った人等を探している場合、厚生労働省の特設サイトとリンクする、全国の都道府県の市町村で保護されている身元不明者の特設ページで検索することができます。掲載されている人に心当たりがある場合、該当する人の連絡先などの詳細情報にアクセスすることができます。

 また、行方不明になっている人の情報提供を要請するために、その人の詳細を掲示することもできます。

 BC州では、RCMP(カナダ騎馬警察隊)のウェブサイトに、行方不明の人の情報が掲載されています。その人に心当たりのある場合、匿名で連絡するための電話番号や、オンラインで情報を提供することもできます。また、バンクーバー市警にも、行方不明者のデータベースがあり、行方不明になった年、および年代に分けて、情報を掲載しています。電話およびEメールで情報を提供するようになっています。

 さて、前述の女性は、身分証明証を携帯していたため、身元がわかりました。しかし、迷子になっている人が、 身元を確認できるものを身につけていない場合、本人確認は難しくなります。携帯電話のGPS検索機能を利用して、行方がわからなくなった人の位置確認をする方法や、直接、電話をかける方法はあります。しかし、普段、携帯を持ち慣れていないため、携帯を持たずに外出することや、携帯電話の使い方がよくわからず、電話をかけることや電話に出ることができないことも考えられます。靴の中敷に装着するGPS端末と、通信事業者の位置情報サービスを利用したGPSシューズによる位置確認の方法もあります。ただし、外出する時、必ずGPSシューズを履くことが条件になります。

 身元確認ができるようにする方法として一番よく聞くのは、すべての衣服に名前を書き、特にジャケット類には、名前だけでなく、住所や連絡先を書いたものを縫い付けておくことです。しかし、より確実な方法は、医療用IDブレスレットなどを着けておく方法でしょう。持病、アレルギー、認知症などの認知機能障害、常用薬、ペースメーカー装用などの医療情報が刻印されており、予め登録された情報に基づき、適切に対処し、連絡先になっている人に連絡するシステムです。 ブレスレット以外にも、ネックレスや時計、フィットネス・トラッカーに、医療用IDとして、医療情報を刻印することもできます。

 一人で外出できれば、誰でも迷子になります。備えあれば憂いなし。手遅れになる前に、何か手立てを講じてください。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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