2019年2月28日 第9号

 認知症になった家族が事件や事故を起こし、多額の損害賠償を請求され、本人に代わり家族がその支払いを求められる。

 認知症の人が関わる損害賠償に注目が集まったのは、2007年に、愛知県で、家族が目を離した隙に、自宅を出て徘徊していた認知症の高齢男性が線路に侵入し、電車にはねられて死亡した事故です。この事故をめぐり、JR東海が、事故による振替輸送費や人件費などの損害を受けたとして、家族に約720万円の損害賠償を求めて提訴しました。一審の名古屋地方裁判所の判決は、妻と長男に請求額全額の賠償を命じ、二審の名古屋高等裁判所の判決は、妻に約360万円の賠償を命じるものでした。その後の上告審判決で、介護する家族に賠償責任があるかは、生活状況などを総合的に考慮して決めるべきという判断を示した上で、男性の妻とその長男は監督義務者にあたらず、賠償責任はないと結論付け、JR東海が敗訴する逆転判決となりました。

 この訴訟で、損害を受ける側になった場合、賠償責任が認められなければ、補償がないこともクローズアップされました。このようなケースを、行政が支援しようという動きも出てきています。日本全国に先駆け、神戸市では、市が賠償責任保険に加入することにより、賠償金や被害者への見舞金を負担する制度を盛り込んだ、市の「認知症の人にやさしいまちづくり条例」の改正が提案されており、今年4月からの施行が予定されています。その内容には、認知症という診断を受けた後、事前に登録した人の保険料を市が負担すること、認知症と診断された人が事故で賠償責任を負った場合、監督責任を負った家族を含め、市が最高2億円(予定)を支給すること、認知症の人が起こした火災や傷害などの事故にあった人に、見舞金を支給することなどが盛り込まれています。

 しかし、神戸市の例は特別で、通常、その必要性を感じる個人が「認知症保険」に加入することになります。「認知症保険」は、比較的新しい種類の保険で、 認知症になり、介護が必要になった時に一時金が支払われる「治療型」と、認知症の人が第三者に損害を与えた時に、保険金が支払われる「損害補償型」の2種類があります。「終身型」と「定期型」があり、年齢が上がるにつれ、保険料も高くなっていきます。

 「認知症保険」というからには、認知症を発症した時点で、保険金や給付金の支給の請求ができるようになるわけですが、保険に加入していること自体を忘れてしまう場合は、少なからず予想できます。そのような事態に備え、事前に「指定代理請求人」を決めておくことも大切です。「指定代理請求人」とは、本人に代わり、保険金や給付金を請求することのできる人で、家族以外に、ケアマネージャーなどの第三者でも構いません。ただし、「指定代理請求人」を決めておいても、「認知症保険」に加入していることを誰かに伝えていなければ、請求もできません。必ず、「認知症保険」に加入していること、「指定代理請求人」が決まっていることを伝えておく必要があります。

 前述の事故のようなケースで、家族の監督責任を理由に、賠償責任が問われた場合、「個人賠償責任保険」が損害賠償金をカバーします。この種類の保険は、家族の誰かが第三者に損害を与えた際に、その賠償金を補償してくれる、おもに特約として加入する保険です。子供が親のために加入することになりますが、特に、認知症の親と同居している場合、介護している家族が監督責任者となるため、つけておくと良い特約のようです。しかし、認知症の親と離れて暮らしていても、介護に関わっていたり、仕送りをしていたりすると、監督責任があると見なされ、責任を問われる可能性もあります。そのため、これまで補償の対象ではなかった別居の家族にも、補償の対象が拡大されています。

 遠距離介護も含め、親の介護に関わっている場合、保険加入は一考の価値があるでしょう。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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