2018年12月20日 第51号
久し振りの虫歯
何を食べていた時か思い出せないのだが、先日食事中にポロっと奥歯の一部が欠けてしまい、もう少しで飲み込むところだった。
かぶせていたポーセリンの一部かと思ったら、あにはからんや、「虫歯ですよ」と歯医者に事もなげに言われ正直驚いた。年二回の検診を怠ったことはなく、朝晩の歯磨きはもちろんのこと、かなり神経を使って歯の健康を維持してきたつもりだったからだ。
私の歯医者嫌いは、治療費が高いからというだけではない。診療室の椅子が倒されるとまったく無防備で、まるで俎上の魚のようになることや、続いて聞かされる「キーン」「ガガガッ」という身の毛のよだつ歯を削る器械の音が堪らなく嫌なのだ。もし誰かが「音なし器械」を発明したら、文句なくノーベル賞を授与したいと思う。
まあ、虫歯は虫歯で自分ではどうすることもできず、3回ほど通って完治したのは嬉しいが、来月のクレジットカードの支払日が恨めしい。
審美歯科医
それにしても歯医者の待合室に座り、貼ってあるポスターのモデルを見ていつも疑問に思うことが一つある。一体生物学的な見地から見て、歯並びの「良い人種」とか「悪い人種」というのがあるのだろうかと。もしあるとしたら、日本人は後者ではないかと確信する。日本では有名な歌手、映画俳優、スポーツ選手、TVのリポーター等などの知名人でも、歯並びの凸凹な人が実に多い。
いまだに歯への意識改革がそこまで進んでいないためかと思っていたら、ある雑誌で、東京のビジネス街で開業している歯科医の談話が載っていた。「日本人は諸外国と比べてメイクやファッションではきれいに装っているのに歯並びのよくない人が多い」と言い「外側ばかりを意識して、歯は最後になりがち」と指摘していた。
私は膝を叩いた。日本語では「審美歯科医」と呼ばれるこの医師は、北米の歯科医と同じに、今ある歯を極力抜かずに美しい口内環境を整える治療に専念していると言う。
もちろん多額のお金が掛かる。だが北米の親たちが子供の歯の矯正をするのは、ただ見た目を綺麗にするだけではなく、噛み合わせや話し方など、口腔の機能面を支える意味でも重要な役割を持つことを知っているからだ。
笑顔の黄金比率
普通は外国生活が長い日本人は、意識が高いとこの歯科医は言い、「健康にもビジネスにも最大の効果をもたらすのは美しい歯で、笑顔の黄金比率は“歯”で決まる」と断言する。
確かにそうだと思いながらも、昔私が、私が親しくしていた東京の某大学院の社会学者は、外国での研究生活が長く、そうしたレベルの人たちとの交流が多々あるにも関わらず、それは見事に不揃いの歯であった。ある日ランチをご一緒したら、サラダに出たホウレンソウが前歯に引っかかってしまい、話すたびにグリーンの葉っぱが見え隠れ。指摘をするのに一苦労したのを覚えている。
演歌歌手として一世を風靡した今は亡き美空ひばりも、売り出しの頃は凸凹歯。売れっ子になるに従ってキリっと揃った歯に矯正したが、それが歌のうまさに相まって歌謡界の女王になった一因だったとか。
信じるに足る逸話である。
サンダース宮松敬子氏 プロフィール
フリーランス・ジャーナリスト。カナダ在住40余年。3年前に「芸術文化の中心」である大都会トロントから「文化は自然」のビクトリアに移住。相違に驚いたもののやはり「住めば都」。海からのオゾンを吸いながら、変わらずに物書き業にいそしんでいる。*「V島 見たり聴いたり」は月1回の連載です。(編集部)