2017年4月20日 第16号
「ネイティブ・スピーカー」(native speaker)という言葉が使われだしたのは90年代後半くらいからなのだろうか、英語ではその言語が話される国で生まれ育った人を表す。その言語が英語である場合は、正確には“native English speaker”というのが正しい。ただ話の流れから単に“native speaker”と呼ばれることが多いため、それが日本でも定着したように見える。 He speaks English like a native speaker. 「彼は英語をまるで母国語のように話す」
90年代はまだ「ネイティブ・スピーカー」であれば、つまり、英語圏で育った人であれば誰でも英語の先生として採用されていた時期だった。著者は高校時代英会話学校の先生が、ニュージーランド人、そしてのちにカナダ人となり、カナダ・バンクーバーに留学した時の最初のルームメイトがオーストラリア人であったにもかかわらず、当時はまだそれぞれ特有の訛りを区別できるほどの英語力はさらさらなかった。
よく考えれば、アイルランド人、イギリス人、スコットランド人、南アフリカ人などみなそれぞれ訛りがあって、それでも彼らは「ネイティブ・スピーカー」なのだ。これはすべてカナダに来てから経験したことであった。ホモジーニアスな日本ではなかなか考えられないことだ。
子供のころの「白人であればアメリカ人」と思っていた感覚で「ネイティブ・スピーカー」を印象付けるのはもう古い。インドや香港で英語で授業を受ける学生たちも「ネイティブ・スピーカー」となるからである。
それで“Are you a native speaker of English?”(ネイティブ・スピーカーですか)のような質問はおかしな質問となるのである。
英語を流ちょうに話していてもたとえばスカンジナビア人、オランダ人などのように母国語は異なることが多い。もし育ちなどを聞きたければ以下の質問ができる。
What is your native language?「あなたの母国語は何ですか?」What is your mother tongue?「あなたの母国語は何ですか?」 Which country are you from? 「どの国の出身ですか?」
このような質問は失礼な質問とはならないので、誤解を招くようなことはないだろう。
では自分が生まれも育ちも日本だといいたい場合、「ネイティブ」を使うのは正しいのか。 I am native to Japan.「私は日本が母国です」 He is a native of Japan.「彼は日本の出身です」
ただ「ネイティブ」は英語では“aboriginal”「先住民族」をすぐに連想させるために、上記の場合、「日本の先住民族」と思わせてしまうかもしれないことに注意したい。
誤解を避けるためには単に“Japanese”(日本人)、“ I was born and raised in Japan”(生まれも育ちも日本です)と言った表現で十分ともいえる。
同じ理由で、「ネイティブ・スピーカー」を「ネイティブ」と略することも避けたい。“native”は「先住民族」、昔使われていた「インディアン」のこと。現在はもっと適する”first nations”という表現がさらに適切と言われている。
どの表現が正しい、適切、といったことは時として自由に英語を話そうとする意志をそぐこともあるが、異なる人種同士での会話の際に下手な誤解を招いて恥ずかしい思いをするよりかは、言葉を発する前にその表現が適しているかに注意することはコミュニケーション自体の段階でとても大切な過程である。
(文・イラスト 亀谷長政)