〜夢を求めて「チャレンジ」〜

カナダ留学からスタートした箏のアーティスト

松元香壽恵さん

 

 日本やカナダのさまざまな音楽イベントで活躍している松元香壽恵さんは、箏の演奏者で準師範でもある。このたびアメリカの大学院で勉強をするため、日系センターで8月30日と31日に開催された、今回の日系祭りがバンクーバーでの最後のステージとなった。日本の伝統的音楽だけでなく、世界各国の音楽家とのコラボやオーケストラでの演奏をしてきた松元さんは、日系祭りで司会や通訳もしている。語学留学で来加した彼女のこれまでの約10年間をふりかえってもらった。

 

  

リハーサル中の松元さん (写真提供 松元香壽恵さん)

  

◇日本からバンクーバーへ

 3歳から生田流宮城会のもとで箏を習い始めた松元さんは、幼い頃とても人見知りのする子どもだった。両親と祖母がもっと人とのコミュニケーションがとれるようにと、箏教室に連れて行ったのが始まり。自分で気づいた時には、朝、歯をみがいてご飯を食べるというように箏を弾くのも毎日の日課になっていたという。

 日本で大学を終えて働いた後、あこがれのバンクーバーに6カ月間語学留学することになった。だが時間はあっという間に過ぎ、これではいけないと感じ、カレッジに入学した。キャンパス内のインターナショナルクラブにも入った。とにかく言葉がしゃべれなくても顔を出そうと決めたそうだ。出席しているうちに周りに顔をおぼえてもらい、互いに挨拶をするようになった。ある日「あれ? 私今英語をしゃべっている?」と自分でもびっくりしたそうだ。

 同時に箏を弾きたいと、日系イベントにボランティアとして参加することにした。そのうち他の音楽仲間と出会う機会も増え、地元のオーケストラやイベント主催者から徐々に演奏依頼を受けるようになったという。 最近では日本の古典音楽、現代音楽、クラシック、即興演奏などさまざまなジャンルで、バイオリン、二胡、カマンチェなど世界中の多様な楽器とコラボレーションした。また、インター・カルチュアル・オーケストラで箏のパートを弾くまでに至った。

 

琴だけでなく三味線、篠笛も演奏できる。写真は楽一のメンバーと

 

◇楽譜は音楽の共通語

 「箏のこと、わかりますか?」彼女からの不意の質問に首をふると「ほとんどの人は知りません。だから私は箏のことを英語で説明したかったんです」と続けた。しかし、英語が広く共通語として使われているように、音楽にも共通語があった。例えば、日本の伝統音楽は口伝(くでん)なので先生の弾いているのをまねて弾く。新しい曲はまず聴いて自分の中でカラオケのように唄えるようになり、それにあわせて弾いていくので楽譜は補助程度にしか使わない。しかし、日本人以外、例えば中国、韓国、インドの音楽家達とコラボをする時には共通語として楽譜が必要になる。音楽を楽譜に書きおこし、こういう感じにしていこうと進める。また、西洋人は楽譜だけを見てそれに忠実に弾く。その違いに何度か苦労することがあった。

 そこで楽譜をもっと奥深く理解できればコミュニケーションが楽になり音楽の会話がもっとできるはずだと感じた。自分に今必要なのはそんな西洋音楽のシステムの勉強、また他の楽器とのコラボレーションの中で琴をもっと知ってもらう努力だと思った。そこで彼女が選んだのは、ディズニーが創立したCalArts(California Institute of the Arts)で、アートの「Caltech」といわれる名門だ。

 「一人で日本からやってきて、今ふりかえるといろいろな人にお世話になりました」と松元さんは続ける。ある宣伝をもじって「私の半分は周りの人の優しさ、もしくはそれ以上、3分の2以上かも」。バンクーバーの友人との別れがとても心残りなのだそうだ。笑顔の素敵な箏のアーティスト。そんな松元さんの姿をステージで見られなくなるのはさびしい。しかし、数年後ますます大きくなって、箏と共にバンクーバーに戻ってきてくれるのを期待したい。

  

松元香壽恵さん

  

(取材 ジェナ・パーク)

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